パリ協定離脱に喝采するトランプの「真の支持基盤」は誰か
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月2日 16時30分
しかしトランプを政治資金で支えることも妨害することもできる強力な巨大企業や超富裕層の国際ビジネスパーソンなら話は別だ。トランプのように脆く、危機に瀕した政治家の政治生命を絶つのも簡単なことだ。
実際、パリ協定離脱で判明したのは俗に「ヨット族」と呼ばれる、トランプの真の支持基盤だ。彼らは、大統領選でトランプの集会に参加した人たちとは似ても似つかず、トランプ支持の赤いキャップなど冗談でしか被らない。
カール・アイカーンやコーク兄弟のような数十億ドル規模の資産を持つ投資家やロシアの新興財閥は、トランプ政権が国内の環境保護関連の規制を骨抜きにし、国外での国際的な制裁合意を反故にすることを心待ちにしている。
そうなれば、原油など化石燃料を採掘して販売するビジネスを再開できるからだ。官僚機構の「負け犬」から科された環境保護の足かせからも自由になれる。
環境保護局長官も仲間
こうした中核のインフルエンサーの他にも、テキサス州やオクラホマ州などには、もっと小規模な石油・天然ガスの採掘企業を経営する無数の富裕層がいる。オクラホマ州は、トランプ政権の地球温暖化に否定的な環境保護局(EPA)長官スコット・プルーイットの出身地でもある。
トランプの政策顧問になっている著名な富豪たちに加えて、プルーイットへの献金リストを見ると、トランプの真の支持基盤を知る手掛かりになる。全米で8番目、オクラホマ州では最大の石油・天然ガス企業「デボン・エナジー」もリストに入っている。デボンは数億ドル規模の資金を規制反対のロビー活動に投入し、プルーイットの様々な活動にも資金援助している。
先月ニューヨーク・タイムズ紙は、今年2月にプルーイットが長官に就任した5日後、デボンが企業としては初めて米政府との環境保護合意から離脱したと報じた。この「トランプ効果」は、二酸化炭素を大量に排出する業界のロビー活動を行っているロビイストから驚愕と歓喜をもって受け止められた。
コロラド州デンバーの石油・天然ガス企業で作る業界団体「ウエスタン・エナジー・アライアンス」の会長キャスリーン・スガンマは同紙の取材に対し、「思い通りになるなんて夢でしか願ったことはなかった。エネルギー業界は罰則を受けることに慣れているから」と喜びを隠さなかった。
トランプの真の支持基盤は、メディアにも深い繋がりと影響力を持っている。この5週間程の間にアメリカの様々なニュース媒体で、ヘリテージ財団など右派系のシンクタンクが捏造した疑わしく裏付けのないデータがばらまかれている。
こうした記事では、パリ協定によってアメリカは経済的なダメージを被り、オバマ政権が策定したアメリカの温暖化対策「クリーンパワー計画」によってアメリカのGDPは2035年までに2兆5000億ドル減少すると予測している。
ファクトチェックサイトの「PolitiFact」は、この予測が間違っていると指摘する。金融機関シティが出資した研究によると、地球温暖化による世界全体の損失はGDPで見ると72兆ドルに上ると試算している。
国際的な温暖化対策の合意を反故にすれば、一握りの富裕層の夢が実現する。トランプが目の前の利益を追い求める富豪たちにどんな恩恵をもたらしているか、トランプ支持者がその事実を知る頃には、ヨット族以外の人々はもう海の中に沈んでいることだろう。
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ニーナ・バーリー
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