メイ首相辞任求める声広がる
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月12日 17時0分
<英国総選挙の結果を受けて、最大野党労働党を中心にメイ首相の辞任を求める声を上げているが、メイ首相の身内である保守党内でも辞任を求める声があがっている>
6月8日の英国総選挙では、保守党が過半数割れをして1974年以来の「宙づり議会(ハングパーラメント)」となっている。北アイルランドのプロテスタント系民主統一党(DUP)と連立することで過半数を確保する方向で、保守党はDUPから大筋で合意を取り付けたと一旦は報じられていた。しかしBBCによると、その後両党はいまだ協議中という声明を発表し、11日時点でまだ結論は出ていないようだ。もともとは大勝ちしてガッチリと足元固めをするつもりだったメイ首相にとって「大失敗」だったことは否めない。
【参考記事】保守党敗北 よりいっそう不透明化するイギリス政治
メイ首相辞任求める声広がる
選挙結果を受けて、最大野党労働党のジェレミー・コービン党首などを中心に、多くの議員がメイ首相の辞任を求める声を上げている。サンデー・エクスプレス紙によると、メイ首相の身内である保守党内でも党員の3分の2が辞任を求めている。
テレグラフが報じたところによるとさらに、請願サイトChange.comでは、「DUPと連立しないこと」と「メイ首相の辞任」を求める署名が集められており、総選挙からわずか2日の10日時点で、すでに50万人が署名しているという。
若年層で広がる労働党支持
エコノミスト誌によると、コービン氏率いる労働党が今回若年層を中心に予想外の票を集めた。3月の時点では、25歳未満の人たちからの支持率はわずか29%だった。しかし労働党が今回の総選挙で打ち出した、「大学を再び無料化に」というマニフェストが若い世代を引きつけ、総選挙の実施が確定した後に行われた調査の中には、若年層における労働党の支持率が70%を超えるものもあったという。
メトロ紙は、正確な数字が出るのは1週間ほどかかるとしているものの、今回の総選挙の投票率は、18〜24歳の若年層で72%に達したと伝えている(全体としての投票率は68.7%)。過去4つの総選挙では、若年層の投票率は約40%前後だった。
このような若い世代での高い投票率が、今回の総選挙の結果に大きく影響したとされているが、インディペンデント紙は、労働党支持を訴えるラッパーやミュージシャンの力が今回の労働党の躍進に一役買っていると伝えている。
ソーシャル・メディアでは、「#Grime4Corbyn(グライム・フォー・コービン)」(グライムとは英国発祥の音楽ジャンル)というハッシュタグが作られ、有権者登録をするとシークレット・ライブのチケットがもらえる、というキャンペーンが行われた。また、ラッパーのJme(ジェイミー)がコービン氏とテレビ出演し、若年層に投票に行くよう訴えると同時に、音楽、教育、芸術について意見を交わしたという。若者に人気のミュージシャンからの支持を取り付けて選挙で大勝する様子は、1997年に地滑り的勝利を納めて、長年の保守党政権に終止符を打ったトニー・ブレア氏率いる労働党を彷彿とさせる。
歴史は繰り返す?
インディペンデント紙は前述とは別の記事で、今回の総選挙の結果が1974年の選挙で宙づり議会になった時と状況が非常に似ていると報じている。
同紙によると1974年、当時の与党保守党は、過半数を余裕で超えておりしかも任期まであと1年半あった。しかし当時のテッド・ヒース首相が選挙の前倒しを実施。結果は宙づり議会となり、議席数では労働党が保守党を上回った。得票率でわずかに労働党を上回った保守党のヒース首相は権力の座にとどまろうと、自由党との連立など数日間試行錯誤したが、結局辞任するに至った。その後、労働党が少数与党となり、ハロルド・ウィルソン党首が首相に就任した。1920年代にも、下院で2位となった政党が少数与党として政権を握ったケースが複数回あったと伝えている。
松丸さとみ
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