『ハクソー・リッジ』1度も武器を取らず仲間を救った「臆病者」
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月23日 10時0分
<メル・ギブソン10年ぶりの監督作品は、実在の衛生兵の生きざまを描く感動作>
長く記憶に残る映画を作ろうと思ったら、何より大事なのは土台となるストーリーと脚本だ。トム・ハンクスやメリル・ストリープ級の名優をそろえても、土台がしっかりしていなければせっかくの才能が無駄になる。
その点、10年ぶりに監督業に復帰したメル・ギブソンは、とびきりのストーリーを選び出した。『ハクソー・リッジ』は第二次大戦下で実在したアメリカ兵士の生きざまを追った作品。戦争の恐怖を容赦なく表現しながら、1人の兵士の揺るぎない信念と慈悲の心を見つめた。
バージニア州育ちの若者デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は敬虔なキリスト教徒。非暴力の信念から兵役を拒んできたが、第二次大戦が激化するなか、祖国に奉仕していないというやましさに苦しんで衛生兵に志願する。死ぬまで武器は取らないと誓った彼は銃もナイフも使わず、ハクソー・リッジと米軍が呼んだ沖縄の激戦地(前田高地)で、仲間の兵士を命懸けで助け出す。
【参考記事】エイリアンとの対話を描く『メッセージ』は、美しく複雑な傑作
ストーリーは3つに分かれる。まず強い信念の背景を明らかにして、ドスの人物像を確立。次に新兵訓練でのトラブルを描き、それから舞台は戦場へ移る。
前半は戦争映画とは思えないほどのどかだ。暴力的な父親に育てられたにもかかわらず、ドスは心優しい青年に成長し、看護師のドロシー(テリーサ・パーマー)に恋をする。初めてのキスで有頂天になり、かつて兄弟と遊んだ野山に彼女を連れて行く。そんな彼にドロシーだけでなく、観客も引かれていく。
ガーフィールドが醸し出す人の良さも手伝って、ドスは好感度満点だ。だからこそ彼が訓練中に臆病者と罵られ、リンチを受けるくだりは心が痛む。だが本当に心がえぐられるのは、沖縄戦に突入してからだ。
ギブソンが監督だけに血みどろの描写が満載だが、戦闘のむごさを徹底してリアルに描いた点は見事。爆弾や機関銃がいかに人体を破壊するか、観客は目の当たりにする。兵士が味わった恐怖を強調することで、そんな状況でも銃を一度も使わなかったドスのすごさが際立つ。
凄惨な戦闘シーンの合間には慰め合い、故郷の妻や恋人への思いを語る兵士たちの交流が挿入される。登場人物を一人一人丁寧に掘り下げた点は、スティーブン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』を思わせる。おかげで観客はドスだけでなく、鬼軍曹のハウエル(ビンス・ボーン)や冷徹なグローバー大尉(サム・ワーシントン)の無事も願うようになる。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
塚本晋也監督「野火」10年目、戦後79年アンコール上映決定
映画.com / 2024年7月19日 20時0分
-
韓国で23年興収1位「ソウルの春」が描く軍事反乱 実在の事件に一部フィクションを交えて映画化
東洋経済オンライン / 2024年7月15日 14時0分
-
花江夏樹がガーフィールドの飼い主に! 山路和弘、磯部勉、立木文彦ら“超ニャンダフル”な声優陣が集結
映画.com / 2024年7月3日 12時0分
-
「子供も観られます」←えっいいの? 近年のトラウマ級な過激アニメ映画
マグミクス / 2024年7月1日 12時10分
-
デンマーク映画『ぼくの家族と祖国の戦争』8.16日本公開&予告編解禁 本国映画賞5部門ノミネートの話題作
クランクイン! / 2024年6月26日 8時0分
ランキング
-
1米サイバーセキュリティー企業CEO、世界的システム障害めぐり「問題を修正、まもなく復旧する」と謝罪
日テレNEWS NNN / 2024年7月19日 22時56分
-
2世界的システム障害、復旧になお数日か 米政権も調査に
ロイター / 2024年7月20日 6時50分
-
3イスラエルの入植活動は国際法違反、ICJが勧告 イスラエル反発
ロイター / 2024年7月20日 1時26分
-
4空港や鉄道、世界で対応に奔走 豪テレビ、映像素材流せず
共同通信 / 2024年7月19日 20時23分
-
5バイデン撤退論が米民主党で急拡大、要求の議員計35人に 本人は選挙戦継続訴える
産経ニュース / 2024年7月20日 8時41分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください