米国はシリアでイスラーム国に代わる新たな「厄介者」に
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月28日 17時20分
こうした軍事攻勢は、ラッカ市とイスリヤー村(ハマー県)、ラッカ市とスフナ市、そしてスフナ市とタドムル市を結ぶ幹線道路を掌握することで、ロジャヴァのイニシアチブのもとに自治が行われるだろうラッカ市とシリア政府支配地域を結びつける交通網を確保しつつ、ロジャヴァとイスラーム国の支配地域を物理的に引き離すことが狙いだ。シリアでの有志連合の戦いを地上で支え得る唯一の「協力部隊」(partner forces)であるシリア民主軍の活動を小規模の町・村しかないユーフラテス川左岸に限定できれば、アサド政権は、ダイル・ザウル市、マヤーディーン市、ブーカマール市など、右岸に集中するイスラーム国拠点への最終決戦の主導権を握ることができる。
米国の危機感と焦りを表すシリア軍戦闘機撃墜
イスラーム国のアブー・バクル・バグダーディー指導者を空爆によって殺害していたとする6月16日のロシア国防省の発表は、こうしたシナリオに現実味を与えるもので、米軍戦闘機によるシリア軍戦闘機撃墜は、「テロとの戦い」の周縁に追いやられることへの米国の危機感と焦りを表すものだと解釈できる。
そして、トルコもこのことを不快には思っていない。なぜなら、イスラーム国に対する「テロとの戦い」における米国の手詰まりは、シリア民主軍の戦略的利用価値の低下を意味しているからだ。トルコが、シリア民主軍に供与した武器をラッカ市解放後に回収するよう米国に強く迫る一方、ロシア、イランとともに「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」の維持に尽力しているのは、PKK(クルディスタン労働者党)の系譜を汲むロジャヴァに対するトルコ版「テロとの戦い」を貫徹しようとしているからに他ならない。
米国至上主義を掲げるドナルド・トランプ政権の対シリア政策は、4月のシャイーラート航空基地(ヒムス県)へのミサイル攻撃がそうであったように、独断的な力の行使を特徴としている。だが、アサド政権、「外国人シーア派民兵」、イラン、ロシア、そしてトルコといった主要な当事者たちの対応を見る限り、それは、「ポスト・イスラーム国」段階を迎えようとしているシリア、そしてイラクにおいて、米国をイスラーム国に代わる新たな「厄介者」と追い落とす「失策」なのかもしれない。
2017年6月28日現在の勢力図
2017年5月末の勢力図
青山弘之(東京外国語大学教授)
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