この夏も『パイレーツ・オブ・カリビアン』が大暴れ
ニューズウィーク日本版 / 2017年6月30日 10時15分
<スパロウ船長の冒険を描く人気シリーズの第5弾は、演技も映像もストーリーも合格点で最後まで楽しめる>
『ワイルド・スピード』はこの春にシリーズ8作目が登場し、リドリー・スコット監督は9月公開の『エイリアン:コヴェナント』でまたエイリアンを生き返らせる。ますますシリーズ作品全盛のハリウッドは、引き際を知らないらしい。
同じようなネタを使い回せば、たいてい行き着く先は2つに1つ。新しい監督を投入して新鮮味を加えつつうまく観客の期待に応えていくか、マンネリ化して失速するかだ。
ヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリが共同監督したシリーズ最新作『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』は、どちらかといえば前者。冒険譚に軽やかなユーモアを織り交ぜ、アクションをたっぷり詰め込んだ。
とはいえ、傑作だった第1作『呪われた海賊たち』のような魅力には欠ける。カリスマあふれるキャラクターとダークな味わいは消え、何より残念なことに型破りなストーリーも切り捨てられてしまった。
5作目となる今回も、物語は海賊ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)と宿敵の対決を中心に展開する。ただし敵を演じるのは、ジェフリー・ラッシュでもビル・ナイでもなくハビエル・バルデム。だからスパロウもうかうかしてはいられない。
バルデム扮するサラザールはかつてスペイン海軍の軍人で、「汚らわしい海賊ども」を血祭りにあげることに人生をささげていた。ところが当時まだ少年だったスパロウに魔の三角海域バミューダ・トライアングルに誘い出され、命を落とす。
亡霊となった彼は乗組員と共に魔の海域に閉じ込められてしまうが、呪いが解けたのを機に脱出し、復讐を誓う。相手はもちろんスパロウだ。
【参考記事】『ハクソー・リッジ』1度も武器を取らず仲間を救った「臆病者」
肝心のデップが魅力不足
『007 スカイフォール』や『ノーカントリー』を見た人はご存じだろうが、悪役をやらせたらバルデムは超一流。今回のサラザールは黒い液体を吐きつつ、顔がひび割れて腐っていく。まさに身の毛がよだつほど恐ろしい――と言いたいところだが、実はそうでもない。
なぜか。第1にサラザールは陸に上がれないから、すごみに欠ける。しかも復讐の矛先を向けるのは海賊限定なので、それほど冷酷に思えない。汚い手を使うのも、海賊退治のためなら理解できなくもないし、まともな軍人なら海賊を目の敵にするのが普通だろう。スパロウの名を呼ぶ以外に、あまりセリフがないのも痛いところだ。
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