暴言ツイッターはトランプの巧妙な戦略?
ニューズウィーク日本版 / 2017年7月6日 10時10分
<トランプが女性キャスターへの中傷で批判を浴びているが、自分に不都合なニュースを埋没させるための「戦略」と見たほうがいい>
イカレていると言いたくなるのも無理はない。先週、トランプ大統領がツイッターに書き込んだ内容はあまりに常軌を逸していた。自らに批判的な女性テレビキャスターのミカ・ブレジンスキーを「IQが低い」と罵り、(昨年末面会に来たときには)「顔のしわ取り手術を受けて出血していた」と女性差別的な中傷まで行ったのだ。
だが、問われるべきは、トランプの精神の健康だけではない。おそらく、暴言は計算されたものでもあった。今回の書き込みは、批判を集めているし、支持率にも悪影響を及ぼすだろうが、ある目的は達した。メディアがこの話題で一色になった結果、トランプにとって不利なほかのニュースがかき消されたのだ。
その日、トランプがブレジンスキーを中傷していなかったら、3つのニュースが大きく報じられていたはずだ。1つは、オバマケア(オバマ前大統領の医療保険制度改革)代替法案の上院採決が先送りになったというニュース。党指導部の案に対して党内の反発が強いことが原因だ。
もう1つは、トランプがロシアのプーチン大統領と初会談するというニュース。さらには、ロシア疑惑関連で辞任したフリン前大統領補佐官(国家安全保障担当)をめぐる疑惑だ。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、フリンは昨年の大統領選期間中、トランプの対立候補ヒラリー・クリントンの電子メールを入手しようとする試みに関与していた疑いがあるという(ロシアのハッカーによりメールが盗み出されたと考えていたようだ)。
こうしたニュースは、トランプの暴言で消し飛んだ。過去にも同じパターンがあった。
【参考記事】トランプがCNNを殴るプロレス動画の波紋
衝動の抑制に難はあるが
トランプは女性テレビキャスターのメーガン・ケリー、メキシコ系の連邦判事ゴンザロ・クリエル、戦死したイスラム教徒米兵の遺族であるカーン一家に暴言を吐いたときも、激しい批判を浴びた。それでも、自分にとって不都合な報道をかき消すことには成功した。しかも、トランプはこれらの暴言による実質的なダメージを負っていない。
これがいつものやり口なのだ。それは精神的に「病んでいる」というより、意図的な「戦略」とみたほうがいい。トランプが衝動の抑制に難があることは間違いないし、いずれはこうした行動が破滅をもたらす可能性はある。だが、この戦略がうまくいくことを経験で知っている。
トランプがブレジンスキーを中傷した翌朝、多くの専門家は、政権がオバマケアの廃止を目指す上では打撃になると分析した。確かに、そうなる可能性もある。議会共和党がトランプの言動を恥ずかしく感じ、世論の怒りが高まれば、オバマケア廃止への勢いがそがれるかもしれない。
しかし実際には、議会共和党がオバマケア代替法案可決に向けた努力を一層強める可能性のほうが高いだろう。議会共和党としては、トランプの暴言以外の政治ニュースをつくりたいと考えても不思議はない。
いずれにせよ、はっきり言えることが1つある。動機がどうであれ、トランプの暴言がアメリカに大きなダメージを与えていることは間違いない。
☆本誌7月4日発売最新号掲載☆
マシュー・クーパー(ワシントン支局長)
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