不妊化したオスで蚊の繁殖を防ぐ、デング熱撲滅の新プロジェクトが始動
ニューズウィーク日本版 / 2017年7月21日 11時10分
<昆虫の生殖機能に作用する寄生バクテリアを使って蚊の繁殖を抑えれば、近い将来、デング熱で苦しむことはなくなるかもしれない――>
元グーグルのライフサイエンス部門でヘルステック企業の「ベラリー・ライフ・サイエンス(Verily Life Sciences)」が今夏、蚊の駆除プロフラム「デバッグフレズノ(Debug Fresno)」を実施する。人工的に不妊化した害虫を大量に放すことでその繁殖を防ぐ駆除の方法の1つで、カリフォルニア州中部のフレズノで試験的に行う。
デング熱や黄熱病のほか、ジカ熱、チクングニア熱を媒介するヤブカ属ネッタイシマカの撲滅を狙う。同社の広報キャサリ―ン・パークスは「蚊の数はきっと減らせる」と、テクノロジーニュースサイト「ザ・バージ」に語った。
(デバッグフレズノを紹介する動画)
ネッタイシマカの繁殖を抑える秘密は菌にある。その名も「ボルバキア」。多くの昆虫に存在する寄生バクテリアの一種で、今回ベラリー社は「細胞質不和合」という、感染したオスが感染していないメスと交配しても、卵が発生しない機能を応用した。
【参考記事】「より多く女性を生かしておく」ように進化したウイルス。その理由は?
ザ・バージによると、ベラリー社は毎週ボルバキアに感染させた蚊の放出を20週間続ける。放出するのは、血を吸わないオスのみ。
多くの命を奪う蚊
世界保健機関(WHO)によると、デング熱感染者は毎年5000~1万人に達する。50万人が重症のデング出血熱を発症し、子供を中心に2万2000人が死に至るという。実際の感染者数はこの4倍との見方もある(CNN)。
アフリカや東南アジアなど熱帯だけの感染症ではない。2015年にアメリカ大陸だけで、235万人が感染し、そのうち1万200人が重症型デング熱と診断され1181人が死亡したことを厚生労働省が報告している。
日本も例外でなく、2014年に東京で69年ぶりにデング熱の日本国内での感染患者が報告された。昨年7月には、フィリピンに滞在歴のある女性がデング熱を発症して死亡したと厚生労働省が発表した。
【参考記事】アメリカの科学者、ゾンビ襲来を警告
【参考記事】スーパー耐性菌の脅威:米国で使える抗生物質がすべて効かない細菌で70代女性が死亡
「ボルバキア」の影響に不安も
ボルバキアの感染が引き起こす現象は他にもある。感染した個体の生殖システムに影響を及ぼす機能があり、感染した宿主がオスだった場合、メス化させる「性転換」や、感染したメスがオスなしで次世代を残す「単為生殖」が確認されている。
ボルバキアを活用してウイルス伝播を阻止する試みは、これまで他の地域でも実施され効果に期待が集まっていた。ただその一方で、不安も残る。科学情報メディアのサイエンス・デイリーは6月15日付けの記事で、インディアナ大学ブルーミントン校の生物学研究科助教授、アイリーン・ガルシア・ニュートンのコメントを掲載。ボルバキアに感染した蚊を広範囲に放出することで、細菌に耐性のあるウイルスの発生を引き起こす可能性があると指摘し、環境に対する長期的な影響はまだ解明されていないと伝えた。
【参考記事】絶海の島国ナウルでデング熱が流行、豪難民収容所の住人は大丈夫か
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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
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