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建軍90周年記念活動から読み解く習近平の軍事戦略

ニューズウィーク日本版 / 2017年8月2日 16時15分

前者は、「勝利から勝利へ」あるいは「いつでも戦うことができ、戦ったら必ず勝つ」といった数多くのスローガンにより、これまでも「強軍大国化」として言われてきた言葉ではあるが、もっと重要なのは「党の精神に従い、党の指示が全てだ」という「党への絶対的な、永遠の忠誠」がなければならないと言ったことである。



逆から見れば、ここまで強烈に「党への忠誠」を誓わせないと、人心が離れていくことへの恐怖があるのだろうということが透けて見える。

後者の「軍民融合」は注目しなければならない。

これはハイテク化されていく軍事力の中で、科学技術を「民間企業にも担わせる」という「軍事産業」の奨励を指示した言葉だ。

2015年3月12日、全人代(全国人民代表大会)が開催されている最中の「中国人民解放軍代表団全体会議」において、習近平は「軍民融合発展計画を国家戦略にレベルアップする」と宣言した。

会議では、アメリカでは軍事産業によって国防部は毎年300億ドルの予算節減をしているということが話題になっている。ここでも「アメリカに追いつけ追い越せ」精神が働いていた。

2017年1月22日に開催した中国共産党中央委員会(中共中央)政治局会議では、「中央軍民融合発展委員会」を発足させることを決議し、習近平が委員長を務めることが決まった。

8月1日のスピーチで習近平は「軍民融合により、国防を強化することができるとともに、軍事産業を通して経済発展を押し上げる」と強調した。それが「中華民族の偉大なる復興」につながるとしながらも、「法律に従って実施しなければならない」と、当たり前のことを注意し、そこに新たな「腐敗」が生まれないように釘を刺したのには驚いた。まさに、どんなに最新鋭の武器を揃えても、「紅い王朝もまた腐敗で滅びる」ことを習近平自身も懸念している事実を如実に示していると痛感した。

ただ、在米の中国人留学生数は20数万人に達し、在米留学生の約30%を占める。しかもほとんどが博士課程だ。彼らがアメリカの先端技術を学んで中国に帰国し、軍民融合の各軍事産業で活躍すれば、「民主と言論の自由」以外でなら、やがてアメリカに追いつき、追い越すだろう。

少なからぬ日本のメディアあるいはチャイナ・ウォッチャーは、何でも権力闘争に持っていこうとする。それは中国を見る目を曇らせる。軍事に関する習近平の行動の先にあるのは、アメリカを凌駕する「強軍大国」への野望だ。軍を強化することが、同時に軍事産業として経済を活性化させる。中国は今、宇宙開発にさえ照準を当て重きを置いている。

言論の自由と人間の尊厳のために、筆者は中国共産党政権の思想的および歴史的史実に関する欺瞞に対しては一歩も引かないが、少なくとも(いや、だからこそ)、こういった現実は直視し、日本の国益を損ねないようにしたいと思っている。


[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


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