次はドイツを襲うフェイクニュース
ニューズウィーク日本版 / 2017年8月2日 16時50分
<人々を惑わす悪意ある嘘が世界で増殖中。9月に連邦議会選挙を控えたメルケル政権はソーシャルメディア規制で立ち向かおうとしているが>
この話、かなりの数のドイツ人の急所を突いていた。
今年の元日、新年を迎えて時計が午前1時を回った頃、フランクフルトの混み合うバーで事件は起こった。オーナーのヤン・マイによると、約50人の「アラブ系」の男たちが乱入して踊り始め、女性客の体をまさぐり、何人かはスカートの中に手を入れたという。
それは大勢の移民を含むセックス・モブ(性的な暴徒)。ドイツ最大の大衆紙ビルトはマイに取材した後、この表現を使って記事にした。その後も右派系ニュースサイトのブライトバートなどが取り上げ、たちまちソーシャルメディアで拡散した。
目撃者は、マイ以外には20代の「イリーナ・A」のみ。彼女はビルトに姓を教えなかったが、自分が襲われた(とされる)様子を詳細に語った。「パンストをはいていて助かった」と彼女は言う。「彼らは私の脚の間や胸、体中をつかんだ」
フランクフルト警察のアンドルー・マコーマック広報官によれば、当局はこの報道に驚いた。地元警察にはその晩、性的被害の通報がなかったからだ。
さっそく調査が開始された。地元商店街の店主たちは、「暴徒」など見ていないと言う。やがて警察はイリーナのフェイスブックのページに、本人が大みそかの晩にはフランクフルトにいなかったことを示唆する複数のコメントを発見した。
ほかに目撃者はいなかったとマコーマックは言う。マイにはバーの防犯カメラの映像の提出を求めたが、故障していたという返事だったそうだ。
警察は2月半ばに記者会見を開き、申し立ては事実無根だったと発表。マコーマックは本誌の取材に、マイとイリーナは虚偽の噂を流し、警察に無駄な捜査をさせた容疑で取り調べを受けていると語った(マイは事実を述べたと主張。イリーナにはフェイスブックを通じてコメントを求めたが回答なし)。一方、ビルト電子版のフリアン・ライヒェルト編集長は「虚偽の報道」を謝罪した。
【参考記事】ドイツのバイエルン州でもブルカ禁止に その目論見は?
嘘の記事は今に始まったことではない。しかしインターネットやソーシャルメディアの普及、現在の対立的な政治風潮のせいで嘘がより生まれやすくなり、「いいね!」やハートマーク、リツイートなどで加速されて世界中に拡散していく。
こうしたフェイク(偽)ニュースの出どころはさまざまだ。カネ目的で本物の報道機関を装ったものや、本物のメディアであってもアクセスを稼ぐために十分なファクトチェックもせず記事を垂れ流すものなどだ。
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