激変する天然ガス地政学----アメリカが崩すロシア支配
ニューズウィーク日本版 / 2017年8月4日 18時38分
グリガスは世界の天然ガス市場における複雑な情勢を図式化し、とりわけロシアがガスプロムをヨーロッパやユーラシア地域との駆け引きに利用していることや、アメリカが主導する世界的な天然ガスブームにも着目している。
たとえこのまま「ノルド・ストリーム2」の建設計画が進んでも、ヨーロッパ市場でロシアの独占は崩れつつあると、グリガスは言う。アメリカを筆頭に新たな天然ガスの調達先が出現したことを追い風に、ロシアの計画に反対する国が増加しているのだ。
リトアニアはバルト海沿岸の港にLNGターミナルを建設し、ロシア以外の調達先からも輸入できるようにした。今年に入り、アメリカからLNGを購入する契約も締結した。ポーランドはすでにアメリカからLNG輸出第1号を調達し、追加の契約を締結した。
アメリカのシェールブームばかりでなく、調達先の分散や効率化、再生可能なエネルギーの利用促進を目指すEU独自のエネルギー政策が生み出す新しいビジネスチャンスは、ヨーロッパ諸国にロシア以上に魅力的なエネルギーの調達先を与えてくれると、グリガスは言う。
世界のLNG輸出は今後少なくとも20%は増加する見込みだ。エネルギー輸出国としてのアメリカとロシアの競争の舞台は、ヨーロッパ市場のみならず世界中に拡大する可能性がある。
ロシアの独占は終わる
ロシアは年内に、北極圏のヤマル半島で3つ目のLNGターミナルを開く予定だ。もしうまくいけば、ロシアの独立系ガス大手ノバテクはLNG市場参入が比較的遅かったロシアがアメリカに追いつき対抗する原動力になるかもしれない。
グリガスは、LNGが今後各国の外交にいかに影響するかを見通した上で、ヨーロッパやアジアの天然ガス市場がロシア依存から脱却するためにアメリカのLNGが重要な役割を果たすと強調している。
アメリカはシェール革命に投資し新しいグローバルな天然ガス市場を構築することで、ヨーロッパへのLNG輸出を最大化できる。LNGの輸出拡大は、トランプ政権の目玉政策の1つでもある。新しい天然ガス輸出大国が台頭し、新たな関係が形成されるにつれて、ロシアのガスパイプラインが独占してきた従来の市場は淘汰されるだろう。
(翻訳:河原里香)
This article first appeared on the Atlantic Council site.
マリ・デュガス(ハーバード大学ケネディー行政大学院、ベルファー科学・国際関係研究所スタッフ)
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