欧州初、ドイツで寄生虫の卵のサプリメントが合法的に販売開始か?
ニューズウィーク日本版 / 2017年8月15日 16時15分
<寄生虫に感染するとアレルギー疾患が改善する、とも言われていたが、ブタやイノシシの寄生虫の一種であるブタ鞭虫(べんちゅう)の卵が、ドイツで栄養補助食品として販売される可能性がある>
ドイツの連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)は、2017年6月、ブタやイノシシの寄生虫の一種であるブタ鞭虫(べんちゅう)の卵について、欧州議会及び理事会規則(97/258/EC)に基づく"ノベルフード(新規食品)"としての申請を受理し、審査手続を開始した。この申請が正式に承認されれば、欧州で初めて、ブタ鞭虫卵が、栄養補助食品(サプリメント)として合法的に販売できるようになる。
ブタ鞭虫を使った栄養補助食品が開発
鞭虫とは、ブタやイヌ、ヒツジ、ヒトなどの盲腸に寄生する線虫網の袋形動物で、多数寄生すると下痢や腹痛、貧血などを引き起こす。現在、世界全体でおよそ10億人が鞭虫に感染しているとみられているが、環境衛生が良好な先進国では、その感染率は極めて低い。
その一方で、「清潔すぎる環境がヒトの免疫システムのバランスに影響を及ぼしているのではないか」という説も唱えられている。発展途上国ではあまりみられないクローン病や多発性硬化症などの自己免疫疾患、アレルギー、喘息などが、先進国で急増しているためだ。
寄生による健康被害を抑えながら、寄生虫がヒトにもたらす効果を活用しようと、タイのTanawisa社では、ブタ鞭虫の栄養補助食品「TSO」が開発されている。
クローン病や多発性硬化症には一定の効果が
ブタ鞭虫は、ヒトの体内では長期間生存できないという性質がある。卵の状態で口から取り込むと、そのまま胃を通過し、幼虫となって盲腸で寄生。やがて死滅し、1ヶ月以内には消化される。これまでに、米国や英国、デンマークなどの研究機関で、ヒトの体内にブタ鞭虫を意図的に取り込ませ、その効果を検証する実験を行ったところ、アレルギー疾患には効果が認められていないものの、クローン病や多発性硬化症には一定の効果がみられたという。
米デューク大学によると、2015年時点で、非正規の販売ルートを通じて寄生虫を購入し、アレルギーや自己免疫疾患の自己治療に活用している患者の数は、世界で6,000人から7,000人程度といると推計されている。
近い将来、連邦消費者保護・食品安全庁で、ブタ鞭虫卵が"ノベルフード"として承認されれば、ドイツ国内のドラッグストアなどで誰でもこれを購入できるようになり、他の欧州諸国も、この動きに追随するようになるかもしれない。しかし、"ノベルフード"は、医薬品と異なり、人体にとって安全であれば足り、その効果を証明することは求められていないため、ブタ鞭虫が自己免疫疾患に効果があるのかについては、依然として疑問が残ったままだ。
否定的な意見も
また、ブタ鞭虫に限らず、寄生虫を使った自己治療に対して、否定的な意見を持つ医師は多い。グローバル衛生の分野を専門とする英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)のHelena Helmby博士は、英科学雑誌『ニュー・サイエンティスト』において、「寄生虫による自己治療は、けして勧めません。いかなるものも、完全に無害とはいいきれないことを肝に銘じておくべきであり、医師による監督のもとでなければ、深刻な副作用を引き起こす可能性があります。」と述べている。
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松岡由希子
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