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米スマート・バイブレーターはどこまで賢いか

ニューズウィーク日本版 / 2017年8月18日 18時0分

クリチマンは、一息つくとこう言った。「そのためのテクノロジーなど必要ない。必要なのは、2人の人間が互いにコミュニケーションを取ることだ。テクノロジーを使えば、2人の関係に多大なストレスが生まれる。人間の経験とは、他者との触れ合いや反応だ。人がヴァギナの体温にこだわり始めたらぶち壊しではないか? 肉体関係が機械的になり過ぎていないだろうか? こうした製品は性行為の概念を機械化してしまう」

暗いイメージを一掃したい

それでもクリンガーは、女性は性的喜びを見つける新しい方法を欲しがるという事実に賭けている。

クリンガーはアメリカ中西部の保守的な家庭で育ち、米ダートマス大学でスタジオ・アートと哲学を学んだ後、金融業界に就職し、ニューヨークに移住した。1年後に退職すると、性玩具のパーティーを主催するようになった。「大学時代のパーティーで女の子から、Gスポット(女性の性感帯)って何?私のGスポットはどこにあるの?と聞かれたのを今も覚えている。別のパーティーでは、自分は一度もオーガズムを経験したことがない、色々試したがどうすればいいのか分からない、何かアドバイスはない?これって普通?と聞かれた。私にはびっくりする発言だった」

クリンガーが初めてバイブレーターを購入したのは、高校生の時。薄暗いCDショップに行き、現金で買った。「すごく不愉快な経験だった。ベイブランド(Babeland、女性向けのおしゃれなアダルトグッズ店)のような、デザイン性に優れた最高級のバイブレーターが並んでいるような店でもなかった」と彼女は言う。「だから私は、女性により良い経験を与えるバイブレーターを作りたかった。振動の速さや耐久性よりも、デザインや購入方法で私がしたような不愉快な経験をなくしたかった」



We-Vibeが裁判沙汰になり、スマート・バイブレーター市場に暗雲が漂う中、クリンガーを中心にしたチームは、ユーザーが完全にプライバシーを保ち、収集された全データを匿名で蓄積するシステムを開発したという。「繊細なデータの秘密厳守に加えて、新たなシステムを整備した。今では当社の社員がデータにアクセスしても、それが誰なのか分からない」とクリンガーは言う。



だが、疑問は残ったままだ。ユーザーのオーガズムをグラフやアニメーションで見られるようにする用途以外に、それらのデータは具体的に何に利用できるのか? 「私たちが目指すのは、以前ならアクセスできなかった自分自身に関する情報を還元することだ」とクリンガーは言う。「今後のビジョンは、集まった情報を使って、もっと個人に特化した手引きや知識を提供し、既存の枠を超えて女性の性行動に対する理解を広めることだ」

米軍関係の仕事で、米サンフランシスコのベイエリアで暮らす31歳のジョアンヌ・ローは、ライオネスの開発初期のベータテストにボランティアで参加した。「ライオネスは、女性が自分自身を理解する段階で抱く恐怖心を、少し和らげてくれる」と言う。オーガズムを一度も経験したことがないという10~15%の女性や、クリンガーにオーガズムについての悩みを打ち明けた女性にとっては、ライオネスはまさに願ったりかなったりの製品なのかもしれない。

(翻訳:河原里香)

アビゲイル・ジョーンズ


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