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消費税引き上げ問題は、政策の対立軸になりうるのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2017年9月8日 15時50分

(4)10%へのアップは、2019年10月1日とする。

ということです。この時点で安倍首相は、「リーマン・ショック級や大震災級の事態」は発生していないが、新興国経済の低迷という事態が発生したことを理由としていました。そして、2017年の秋を迎えた現在、再び消費税率アップの問題が政治課題とされる気配が漂っています。



確かにこの問題は、解散という形で民意を問う場合、相当に意識されるのはわかります。勢いのない野党が、仮に「税率アップ先延ばし」とかあるいは「税率引き下げ」を提案してきたとしても、自民党は全体的に政権担当能力をアピールできれば負けない、であるならば「予定通りアップ」を公約に盛り込んで固めてしまおうという戦略は、善し悪しは別として理解できるからです。

これに加えて、かつて民主党政権を支持していた「財政規律派の世論」、つまり「個人や企業として余力があるので、中長期的な財政を心配できる」層、要するに都市型の富裕な無党派層を、今度は自民党として取り込めるかもしれない、石破、岸田の両氏にはそんな計算もあるのかもしれません。

ですが、2017年の現在、この問題は対立軸を作って民意を問うべき対象として、果たして適当と言えるでしょうか?

そもそも、三党合意を踏みにじる形で2度、税率アップを先送りした安倍政権の判断は「単なる嫌なことの先送り」だったのでしょうか?

これらの問いに、現時点で明確な解答を出すのは困難です。それは、この問題をイデオロギー論争として扱うことに疑問が生じるためです。

【参考記事】日本の核武装は、なぜ非現実的なのか

「中長期的な理想論では財政規律を目指して増税、短期的なサバイバル優先や感情論からは増税反対」

「保守的な国家観からは財政規律を優先して増税、庶民的あるいは左派的な価値観からは増税反対」

という対立軸が一般的にはあるようですが、果たしてそんな対立に意味があるのかということです。さらに、

「将来の社会保障が気になる現役世代は財政規律、年金生活で消費税のインパクトが強い一方で遠い将来への関心が薄い高齢世代は増税反対」

というような構図で世代間対立を煽っても、それで民意による合意形成ができるとも思えません。



ここは素直に、この間の経済の低迷は「人口減・市場縮小への恐怖」と「90年代に端を発した産業の競争力低下・国際市場開発力低下」「先端産業を中心に加速する空洞化」の結果であることを素直に受け入れ、そのうえで破綻回避のためという大前提で、

「経済に余力を残しているうちに増税して債務を減らしておいた方が得策なのか?」、それとも「思い切って消費減税をして消費喚起を図り、税収増になるまで景気を引っ張り上げることができるか実験をする価値はあるのか?」

といった命題を設定して、多角的、実務的に議論をしなければならないでしょう。とにかく、税率アップしたものの消費が大きく低迷して結果的に税収増が実現しなかった、などという事態は避けねばなりません。そうなれば、社会保障の持続可能性まで大きく損なわれるからです。


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