民主党に傾くトランプに「隠れ中道派」疑惑が
ニューズウィーク日本版 / 2017年9月14日 17時45分
<債務上限引き上げで民主党案を支持し、移民政策でも共和党に反旗を翻すのはなぜ>
一体何が起きているのか? これもトランプ流の策略なのか? トランプ米大統領が今、これまで罵詈雑言を浴びせてきた民主党と共闘し始めている。
9月6日、トランプは政府の借り入れを増やすため、連邦債務上限を12月15日までの3カ月間引き上げることで共和・民主両党の指導部と合意した。ただし、期間は民主党の提案に沿ったもの。トランプが所属する共和党は18カ月間を提案したが、歳出削減案がないまま借り入れを増やしたくない民主党にトランプが賛同した形だ。共和党は妥協案として6カ月を提示したがトランプはこれも却下、共和党指導部を袖にした。
結果的にトランプは、就任後初めてコテコテの保守主義や党派主義に陥ることなく、共和・民主の懸け橋になるような政治を行った。
もっとも、トランプが民主党と手を組んだのは政権運営が正常化した証拠とも言える。大統領は常に党派を超えて決断すべき存在で、所属政党ともめた場合は野党に頼ることもある。民主党のビル・クリントン元大統領も、福祉政策などで同党と折り合いがつかなかったとき、共和党と手を組んだことがある。
ただ、トランプの変節が気になるのは、今はその必要が全くない時期だからだ。トランプが何かを成し遂げるために現実的になっているのか、それともオバマケア(医療保険制度改革)の撤廃に失敗した共和党のポール・ライアン下院議長やミッチ・マコネル上院院内総務に対する腹いせなのかは分からない。ただトランプの変節ぶりは、保守派に「実はトランプは隠れ中道主義者ではないか」との疑念を呼び起こした。
【参考記事】トランプの新たな移民叩きが始まった、標的はオバマの「ドリーマー」
移民対策も民主党任せ?
その懸念が現実味を帯びたのが、移民政策をめぐるトランプ政権の対応だ。不法移民取り締まりの急先鋒に立つセッションズ司法長官は9月5日、オバマ政権が実施した16歳未満で不法入国した若年層に対する救済措置(DACA)の撤廃を発表。80万人が強制送還の憂き目に遭う恐れが出てきた。
これに反発した移民擁護派の市民やDACA対象者は、街中でデモを実施。グーグルやアップルなどの経営トップも撤廃反対の声明を出すなど、政権への風当たりが強まっていた。
するとトランプは、すぐさま撤廃を取り下げる動きを見せ「チャックとナンシーが何とかしてくれるさ」と語った。民主党の有力議員で人権擁護派のシューマーやペロシを親しげにファーストネームで呼びながら、DACA撤廃後も強制送還されずに済む対策をまとめるよう議会に要請。ペロシも、DACA対象者に向けてトランプが「心配するな」とツイートしたのは自身の要請によるものだと語り、トランプとの緊密ぶりをアピールした。
【参考記事】憤るアメリカ白人とその政治化
共和党にとっては青天のへきれきだ。オバマケア撤廃に失敗し、人工妊娠中絶の禁止法案は頓挫気味、税制改革も見通しが立たず――。この1年間、保守派の最高裁判事を誕生させたこと以外にこれといった成果を出せずにいる共和党だが、突如として彼らが最も忌み嫌う移民政策でも他の政策以上に「危機」に陥っていることを悟り始めた。
数週間前、トランプはアリゾナ州フェニックスでの政治集会で、「政府閉鎖になってもメキシコ国境沿いに壁を造る」と息巻いていた。そして今の変節ぶり。債務上限引き上げの期限が終わる12月、私たちは再び想像もできないニュー・トランプと向き合っているかもしれない。
<本誌2017年9月12日発売最新号掲載>
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マシュー・クーパー
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