世界初の頭部移植は年明けに中国で実施予定
ニューズウィーク日本版 / 2017年9月21日 17時15分
<前例のないヒトの頭部移植は来年に持ち越される。さらに、生還できる保証はないと言われてロシア人科学者の患者は手術を断念した>
今年12月に予定されていた世界初のヒトの頭部移植手術は、来年に見送られることが決定した。日程はまだはっきりしていないが、1~3月に実施されるとの見方が強い。
頭部移植のパイオニア、セルジオ・カナベーロ医師は、9月19日(現地時間)に自身のフェイスブックを更新。年内の手術実施はないことと、患者をロシア人から中国人に変更することを明らかにした。
これまでの予定では、人類初の頭部移植手術を受けるのはロシア人コンピューター科学者のバレリー・スピリドノフだった。手術は文字通り、スピリドノフの頭部を切り離し、ドナー(死体)の体に付け替えるもので、これまでにイヌやサルなどで実験を重ねてきた。手術の概要は下の動画で紹介している。
「生還できる保証はない」
スピリドノフは、筋肉や脊髄神経が徐々に委縮していく「ウエルドニッヒ・ホフマン病」を患っており、幼い頃から車いすでの生活を余儀なくされている。
この2年間スピリドノフはカナベーロと頭部移植手術の準備を進めてきたが、直前になって手術を受けない決定を下した。理由についてスピリドノフは、「(手術後に)再び歩く、普通の生活を送る、少なくとも手術から生還する、という自分の要望に対し、カナベ―ロが約束できなかったため」と語った。
頭部移植手術にもちろん前例はない。術後については、カナベ―ロの「約束できない」という言葉の通りだろう。
一方でスピリドノフは英紙デイリー・メールに対し、「カナベ―ロを頼れないなら、自分の健康は自分の手にかかっている。幸運にも、スチ―ルインプラントで脊髄を支える治療のケースがある」と頭部移植の代わりの治療法に懸ける心境を語りながら悔しさを滲ませた。カナベ―ロを批判する声も多々あるが、現在32歳を迎えるスピリドノフには救世主に見えていたのかもしれない。
健康情報サイト「ooom」が掲載する記事でカナベ―ロは、(スピリドノフではなく)中国人の患者が手術を受けることを明かした。新たな患者の詳細は不明だが、手術は中国・ハルビン医科大学の任曉平(レン・シアオピン)博士とともにハルビンで行うようだ。今後、レン博士の研究チームから正式な発表があるとされている。
前例のない大手術に自信
カナベ―ロとレンが長年取り組む頭部移植術は、科学界から大きな批判を受け続けている。倫理的な問題はもちろんだが、何よりも手術が成功する証拠が十分でないとの指摘が多い。手術が失敗に終わった場合に患者が味わう苦しみは想像を絶するものだという。
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