世界が抱えるもう1つの核危機
ニューズウィーク日本版 / 2017年9月21日 17時50分
<国連演説でもイランを「殺戮国家」と批判し、核合意の再交渉を試みたトランプ政権は何にこだわっているのか。その危険な反作用とは>
欧米など主要6カ国とイランが2015年に取り交わした核合意の再交渉を画策する米トランプ政権の試みは完全に頓挫した。欧州主要国はアメリカが離脱しても合意を維持すると明言、イランの大統領は再交渉に応じる考えはないと突っぱねた。
9月20日夜、イランと主要5カ国の外相、EU代表、レックス・ティラーソン米国務長官、ニッキー・ヘイリー米国連大使が非公開の協議を行い、その結果、米側もイランが合意内容を遵守していることを認めざるをえなかった。
「合意内容が完全に履行されている限り、再交渉を行う必要はまたくない」と、EUのフェデリカ・モゲリーニ外交安全保障上級代表は記者団に語った。「合意に定めた核開発計画に関する取り決めについて違反はまったくないことを協議の参加者全員が認めた」
モゲリーニはさらにクギを刺した。「国際社会には今、正常に機能しつつある核合意を引っ繰り返す余裕などない。われわれはもう1つの潜在的な核危機を抱えており、これ以上危機は要らない」
「ウラン濃縮を好きにやるぞ」
イランのハサン・ロウハニ大統領は同日午後、ミレニアム・ホテルで記者会見を開き、トランプ政権が核合意を破棄するなら、現在合意によって制限されているウラン濃縮についてイランは「フリーハンド」にさせてもらうと警告した。
ロウハニは、アメリカが合意を破棄しても、核開発を再開する考えはないと断言し、国際社会に広く支持されている合意から離脱すればアメリカは信用を失うが、「イランは世界においてより強固でより良い地位に就ける」と自信を示した。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「核合意の破棄は過ち」だとの立場を鮮明にしている。トランプが「アメリカの恥」とまで言った核合意を、マクロンは「良い」内容だと評価。ただし、弾道ミサイル開発の禁止が盛り込まれていないなど不十分な点があることは認め、アメリカの懸念には一定の理解を示した。
アメリカが核合意から離脱する可能性について、あるEUの外交トップは「この合意は国際社会のものだ」と息巻いた。トランプ政権はイランの合意順守状況について90日ごとに議会に通告することになっており、次の期限は10月15日に迫っている。
欧州寄りの米政府関係者や、イランの核合意順守状況の監視役であるIAEA(国際原子力機関)も、イランはきっちりと合意を順守していると言っているのに、報道によれば、トランプはどこからかイランは合意を順守していないと結論づけたという。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
イラン、ウラン濃縮引き下げ打診 核合意再建案、米政府に提示
共同通信 / 2024年5月2日 16時23分
-
「越えてはならない一線」を明確に、バイデンがイスラエルの戦争拡大を防ぐためにやるべきこと
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月24日 15時8分
-
意外と早かったイスラエルの「報復」が意味する事 「暗黙のルール」に基づいた報復の応酬だが…
東洋経済オンライン / 2024年4月19日 20時0分
-
情報BOX:イランはどこまで核兵器製造に近づいたか
ロイター / 2024年4月19日 12時34分
-
対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃か、重要人物暗殺か、ハイテクで恥をかかせるか
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月16日 18時39分
ランキング
-
1世界初 「月の裏側のサンプル採取」に挑戦 中国の無人月面探査機発射成功
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月3日 20時44分
-
2米CIA長官がエジプト入り=ガザ休戦で協議か
時事通信 / 2024年5月3日 21時42分
-
3バイデン氏発言に抗議=「外国人嫌い」に「残念」―日本政府
時事通信 / 2024年5月4日 6時54分
-
4韓国慰安婦訴訟で追加提訴 日本政府に損害賠償請求
共同通信 / 2024年5月3日 17時6分
-
5「ウクライナには反撃の絶対的な権利」英キャメロン外相 ロシア領内への反撃に理解
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月3日 21時26分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください