ノーベル文学賞のカズオ・イシグロという選択 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月11日 11時40分
ですが、審査員たちの選択は全く別でした。感情的なポピュリズムの嵐が吹き荒れる世相に対して、文学が立ち向かうには「ポピュリズムとは正反対の深く沈潜する純粋な美学と、知的な言葉」だという、まさに文学の本質に戻ろうとした――今回のカズオ・イシグロ氏の受賞はそのような受け止め方が可能です。
その意味で極めて納得感があるのですが、イシグロ氏の場合は1989年にブッカー賞という英語圏の文学賞としては最高の栄誉を受けているだけでなく、以降もコンスタントに作品を発表しており、現在は英語圏の純文学作家としては、最も尊敬を受けている存在の一人と言って良いでしょう。ですから、見方によっては「イシグロ」ブランドの方が「ノーベル文学賞」というブランドより格上というイメージもあったわけです。
そんな中で、いわゆる「賭け屋」業界などではノーマークだったのですが、受賞となれば誰も驚かない、極めて納得できるチョイスだと言えます。俗っぽい世相に対して文学界として一石を投じたことになり、けれども露骨な政治性は感じさせないという巧妙なチョイスです。
ところでこのイシグロ氏ですが、私個人としては日系人の姓名を「カタカナ表記」する習慣は、まるで「ソトの人」扱いをしているようで好きではないのですが、一説によると「カズオ・イシグロ」というカタカナ表記は、ある時点でご本人が公認した「日本語のペンネーム」ということになっているようです。ですから、これはこれで問題はないのかもしれません。
個人的に気になるのは文化勲章の問題です。過去の例で言うと青色発光ダイオードの中村修二氏の場合はアメリカに帰化後のノーベル物理学賞受賞を評価して文化勲章が授与されています。そのような先例がある以上、イシグロ氏の受賞も妥当ではないかと思います。
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