ロヒンギャが「次のパレスチナ人」になる日
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月11日 17時0分
米ジョージア州立大学のエリン・カーンズ率いるチームの調査でも、同様の結果が示された。調査によれば、暴力の加害者がイスラム教徒の場合のメディア報道は、加害者がイスラム教徒ではない場合に比べて約4.5倍に及んでいる。カーンズに言わせれば「イスラム教徒ではない加害者が同程度の注目を集めたければ、もう7人くらい殺さなくてはいけない」ことになる。
「パレスチナ人はテロリスト」という短絡的な見方も一般的だ。ロヒンギャの場合、ミャンマーは被害者のはずの彼らを「ベンガル人テロリスト」と、加害者として表現している。
「ナクバ」再来を危惧
世界のイスラム社会にとっては、イスラム教徒が過半数を占める国と「欧米」は、民族浄化に加担こそしていなくても、あまりに長く沈黙しているように感じられる。
しかし注目すべきなのは、他の民族集団でも起きている同様の問題に、国際社会がほとんど目を向けていないことだ。例えば中国西部の新疆ウイグル自治区を拠点とし、チュルク語を話す少数民族ウイグルの問題だ。イスラム教徒が過半数を占めるウイグルは、社会的にも政治的にも迫害されている。
イスラム世界は中国の治安部隊が反ウイグルの暴力をあおっても、見て見ぬふりをしてきた。この理由については、イスラム世界の指導者たちが中国との魅力的な貿易関係を損ないたくない、あるいは自国の反体制派に対する姿勢に注目を集めたくないためだという指摘がある。
ロヒンギャとパレスチナ人の窮状は、宗派間の違いを超えた危機となっている。双方に対する迫害は、イエメンやイラク、シリアでの宗派対立では見られないイスラム世界の協力と団結につながっている。
ミャンマーの問題では世界中のイスラム教徒が平和と思いやりを求めて団結しており、その点ではシーア派もスンニ派も同じ気持ちだ。その一因はロヒンギャの問題が、イスラム世界を分断する宗派の違いという問題から遠く離れていることだろう。
慈悲や思いやり、正義を重んじるイスラムの教えは、無実の命が失われることがあってはならないと説く。コーランには「地上で悪を働いたという理由もなく人を殺す者は、全人類を殺したのと同じ。人の生命を救う者は、全人類の生命を救ったのと同じ」と書かれている。
だから世界中の何億というイスラム教徒は、人種や民族、宗教や国籍に関係なく、人命を尊重しているのだ。
しかしロヒンギャの窮状は、世界中のイスラム教徒にとって特別な感情を呼び覚ます問題だ。彼らは新たな「ナクバ」の到来を恐れている。
イスラム世界の指導者たちは行動に乗り出さない。そのため一般のイスラム教徒は、自分たちの手でナクバを阻止しようとしている――たとえ、もう遅過ぎるとしても。
From Foreign Policy Magazine
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[2017.10.10号掲載]
クレイグ・コンシダイン
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