脳の「忘れる」はたらきを模倣する量子物質、米研究者が発見
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月20日 17時0分
人間を含む動物の脳は、記憶容量に限りがあるため、重要度の低い情報を忘れることによって情報処理を効率化する。こうしたはたらきを、特殊な結晶構造を持つ物質で模倣することに成功した、と米国の研究者チームが発表した。
量子レベルでのシミュレーション
米アルゴンヌ国立研究所のナノ科学チームが実施した研究で、英学術誌「ネイチャー」系のオープンアクセスジャーナル「ネイチャー・コミュニケーションズ」に論文が掲載された。同チームが研究に用いたサマリウムニッケル酸塩(SmNiO3)は、量子ペロブスカイトと呼ばれる特殊な原子結晶構造を持つ。この物質に陽子1個を加えたり取り除いたりすると、ペロブスカイト構造が膨張したり収縮したりする、いわゆる「格子呼吸」という現象が起きる。
ところが、この格子呼吸を起こすプロセスを継続していると、ペロブスカイト物質が順応して電子的な特性が変化し始める。やがて、陽子を加えたり取り除いたりしても、格子呼吸が起きにくくなっていったという。研究チームはこのような変化が、「ウォータースライダー(絶叫マシンの一種)を最初に滑り降りるときはひどくおそろしく感じるが、繰り返し滑っているうちに恐怖が薄れていく」という状況に似ていると説明する。
チームは、「忘却に似たパターンを示す非生命体の物質を作ることは難しいが、われわれが研究した特殊な物質は忘却の挙動を模倣することができた」と述べている。
応用の可能性は
研究者らは、ペロブスカイト物質のこうした特性が、脳の複雑な学習経路を単純化したモデルに利用できるのではないかと期待する。また、ニューラルネットワーク向けの新しいアルゴリズムの開発につながり、人工知能や機械学習の改良に役立つ可能性があるとしている。
高森郁哉
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