経済予測が当たらないのには、確かな理由がある
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月24日 18時29分
経済学のモデルも、まず経済をいくつかのグループやセクターに分ける。それぞれのグループには代表的な消費者や生産者がいて、需要と供給といった経済の「法則」によって、その行動を刺激する。ただし常に変動する気象と違って、経済学ではこれら経済の法則によって物価は均衡点で安定すると考えられている。
金融機関はただの仲介人?
また、経済学のモデルでは、経済は巨大な物々交換システムと考えられており、貨幣や債務は主たる役割を果たさない。だが世界金融危機は、まさにこれらの要素によってもたらされた。多くの中央銀行が金融危機を予測できなかった理由の1つは、そのモデルに銀行が含まれていなかったからだ。
たとえ経済モデルで貨幣が考慮されていたとしても、あくまで「金融摩擦」というマイナーな問題として考慮されるにすぎない。現代の世界の金融システムは、極めて複雑に絡み合っていて、ある場所で危機が起きれば、たちまち世界中に波及する恐れがあるが、そうした実態は適切に考慮されていない。伝統的な経済モデルを使って未来を予測することは、水を考慮に入れずに天気を予測するようなものだ。
経済学に無縁の人には、これは奇妙なことに思えるかもしれない。しかし経済学の歴史を考えると、これは理にかなっている。
経済学の父アダム・スミスは、市場メカニズムという「見えざる手」によって、モノやサービスの価格はその「本質的な価値」を反映するようになると考えたので貨幣はその本質から外れた存在にすぎない。ジョン・スチュワート・ミルは、1848年の著書『経済学原理』で、「経済社会において、貨幣ほど本質的に取るに足らぬものはない」と言い放った。
20世紀の経済学のバイブルだったポール・サミュエルソンの『経済学』も、「交換から貨幣など曖昧な要素を取り除き、本質的な要素までそぎ落とせば、個人や国家間の貿易は基本的には物々交換だ」と述べた。
50年代の経済学者たちは、「見えざる手の定理」と呼ばれるものによって、こうした物々交換経済は、最適な均衡をもたらすことを証明した。ただし、当然ながらそれには多くの条件があった。60年代の市場論者たちは、金融市場は自己修正機能のある均衡システムだと主張した。この理論は、オプション(ある資産を将来特定の価格で売買する権利)の価格決定方法に使われた。そしてそれが金融派生商品(デリバティブ)の爆発的増加につながった。
現在の経済学者は、いわゆるマクロ経済モデルを使って世界経済という天気を予測する。そこでは貨幣や債務、デリバティブは、依然として無視または過小評価されている。
だが、金融工学の専門家ポール・ウィルモットによると、2010年の世界のデリバティブの想定元本は総額1200兆ドルにも上る。これほど巨大な位置を占める要素を無視しているのに、経済全体をきちんとモデル化できていると経済学者たちが考えているなんて、なんだか奇妙に思えるかもしれない。ある理論では、貨幣は重要でないだけでなく、その大部分は存在するべきではないとさえ考えられている。
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デイヴィッド・オレル(数学者、科学ライター)
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