殺された米兵はニジェールで何をしていたのか
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月26日 16時0分
ニジェール政府の要請を受けて、国務省国際開発庁、情報庁(現在は廃止)などの米政府機関が、ニアメに大使館を置く各国政府や国連機関、NGOと連携して選挙関連の法整備などを進め、民主的な政治制度の基盤を築いた。93年には1960年の独立以来初めて議会選挙が実施され、トゥアレグ族など少数民族の政党も候補者を擁立した。
民主的な統治への移行はどこの国でも一筋縄ではいかず時間がかかるものだ。ニジェールでも軍部のクーデターが繰り返され、民主化の進展は一進一退を余儀なくされた。11年にイスフ・マハマドゥ大統領率いる現政権が誕生し、政情はまずまず安定したが、今なお経済的・社会的インフラの構築で国際的な支援に大きく依存している。イスフ大統領は民族融和を掲げ、11年以降、首相を務めるブリジ・ラフィニはトゥアレグ族の出身だ。
ニジェールに米軍が展開するもう一つの理由は、この国がサハラ砂漠に位置すること。政府の統制が行き届かない砂漠は、テロ組織や過激派が基地を置くにはお誂え向きだ。「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」やテロ組織ISIS(自称イスラム国)に忠誠を誓うボコ・ハラムなど、この地域の安定を脅かす武装勢力の動きを把握するには、ニジェールに拠点を置く必要がある。
「なぜ米軍がニジェールに?」という問いには、こう答えたい。脆弱国家の政治的・経済的な安定化を支援することは、地域の安全保障のみならず、アメリカの安全保障に貢献する。民主的な統治が実現し、無政府状態の地域が縮小すれば、過激派がグローバルな脅威へとのし上がる芽を未然に摘むことができる。米軍、とりわけ相手国の治安能力の向上を支援する特殊部隊は、外交や開発援助に取り組む政府機関と並んで、アメリカの安全保障戦略に不可欠の役割を果たしているのだ。
今回の悲劇的な事件は、サヘル地域での米軍の任務が大きな危険を伴うことを改めて痛感させた。だがもし「ニジェールに駐留する理由」が疑問なら、テロ対策でのアメリカの戦略的な目標、と、アフリカの脆弱国家の民主化を支援することがそこで果たす役割に目を向ける必要がある。
(筆者は1990~93年、ニジェールの首都ニアメのアメリカ大使館に勤務した)
From Foreign Policy Magazine
デービッド・リット(米国務省元顧問)
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