中国崩壊本の崩壊カウントダウン
ニューズウィーク日本版 / 2017年10月27日 17時30分
こういった本には制作コストの安さというメリットもある。多くの場合、経費をかけた現地取材をすることなく、中国国外で活動する反共産党の中国語メディアの記事をネタに複数の中国ウオッチャーが対談。それを書き起こした内容を編集して書籍化されている。
例えばよく使われる「中国の治安維持費は国防費をしのぎ、経済成長率を上回るペースで毎年増加している。治安維持費の増加に中国経済は耐えられない」というネタは、もともと香港紙が14年頃に取り上げ始めた。11年に中国政府の「公共安全支出」が国防費を上回ったことが、「治安維持費と国防費が逆転、外敵よりも人民を敵視する中国政府」という文脈で広まった。
しかし、公共安全支出は警察、武装警察、司法、密輸警察などの支出の合計。密輸監視を治安維持費と呼ぶべきかどうか疑問が残る。また警察関連が公共安全支出の約半分を占めているが、16年は4621億元(約7兆8600億円)と対GDP比で0.62%にすぎない。ちなみに日本の警察庁予算と都道府県警察予算の合計は3兆6214億円、対GDPで0.67%だ。
中国のGDPは公表値以上?
中国の経済統計が捏造されているとの指摘も定番だ。ただ統計制度の未成熟ゆえ、逆にGDPを過小評価している可能性もある。公式統計に把握されない地下経済はどの国にもあるが、制度が未成熟な途上国ほど規模は大きくなる。中国の地下経済規模は先進国以上とみられ、これを加算したGDP規模は統計を大きく上回るかもしれない。
論理的に統計の矛盾を突き、崩壊論を導こうとする著者もいる。経済評論家の上念司は『習近平が隠す本当は世界3位の中国経済』(講談社)の中で、輸入量と実質経済成長率の相関が不自然な点から、中国の統計は捏造であり、そのGDPは今でも日本以下だと主張する。これに対し、神戸大学経済学部の梶谷懐教授は「実質経済成長率を算出するためのデフレーター(物価指数)が不正確なことに起因している。ごまかしではない」と批判する。
崩壊本も代わり映えのしない内容の繰り返しではさすがに飽きられるように思えるが、それは大きな間違いだ。
嫌韓・反中のネット掲示板では、日々似たような情報が繰り返し論じられる。議論や新たな情報の収集が目的ではなく、ただひたすらに会話を途切れさせないこと、コミュニケーションを続けることが目的化している――と、社会学者の北田暁大は著書『嗤う日本の「ナショナリズム」』(NHK出版)で指摘する。中国崩壊本も同じことで、読者にとって新しい情報や議論はむしろ邪魔かもしれない。
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