サンフランシスコ「従軍慰安婦像」への大阪市対応は慎重に - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2017年11月16日 17時0分
<大阪市サイドはサンフランシスコ市が拒否しなければ姉妹都市の関係を解消することも辞さない構えだが、日米関係への様々な悪影響を考慮すれば、政治問題化させない慎重さが必要>
アメリカのサンフランシスコ市議会は14日、市民団体が市内私有地に建てた(その後、土地は市有地化)「従軍慰安婦像」の寄贈を受けるという議案を全会一致で可決しました。エドウィン・リー市長が10日以内に拒否権を発動しないと、像を含めた土地は市有化されることになります。ちなみに像というのは韓国で見られる「少女像」ではなく、3人の女性の立像です。
この事態を受けて、大阪市の吉村洋文市長は「サンフランシスコとの姉妹都市関係について解消も辞さない」という立場を表明しています。一方で、市議会は自民党や公明党を中心に慎重姿勢を取っているようです。この問題ですが、仮に姉妹都市関係が解消に向かう場合には、以下の3つの懸念を考慮すべきだと思います。
1つは、タイミングの問題です。現在のアメリカでは「あらゆる性的嫌がらせと暴力」は時効を適用せず厳しく批判するという動きが続いています。ハリウッドから、政界に至るまで連日スキャンダルの摘発がニュースになっているのです。これは、性的な問題における人権意識が不十分であった点をこの機会に改善しようという流れであり、あまりにもタイミングが悪過ぎます。
そのような中で、「性奴隷」という文言を削除させるのは大変に難しいと言わざるを得ません。「人身売買の被害者」で「報酬が借金と相殺される」売春婦という存在は、現在のアメリカでは間違いなく「性奴隷」というカテゴリに入るからです。まして「強制連行ではなかった」が「事実としては人身売買だった」ということを声高に叫んでも、「悪いことには変わりはない」として一蹴されるだけでなく、イメージダウンは避けられないでしょう。
さらに、姉妹都市の解消騒動が広範に報じられてしまうと、「戦後の日本は礼儀正しい平和国家だと思っていたのが、旧軍の非人道性を擁護するというのは、大阪は今でも悪の側に立つのか?」という言われ方をしてしまう可能性があります。既にこの問題では、西海岸のメディアだけでなく米ワシントン・ポスト紙などが論評を始めており、慎重の上にも慎重を期する必要があります。
2番目としては、大阪だけでなく、仮に全国レベルの問題に発展してしまうと、2012年からの安倍政権の努力が全くムダになってしまいます。2007年の第一次政権の際に安倍政権は、「慰安婦問題で、国内向けには歴史修正主義、国外向けには河野談話継承という『二枚舌』を使い分けているのではないのか?」という批判を浴びて、日米関係が動揺するという事態に陥りました。
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