超音速旅客機ベンチャー、成功の可能性は? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2017年12月7日 16時30分
一方で、羽田を朝出発という場合はこれとは異なります。朝の9時発ということで考えてみると、所要5時間半ということは、日本時間の14時半にサンフランシスコ着となります。これは、日付変更線を通過する関係で「サンフランシスコ時間の前日21時半」になります。急いで移動しても、夜になってしまいビジネス的にはムダという考え方もできますが、金曜の朝に日本を出て、木曜の晩にサンフランシスコに着いてゆっくり眠れるのであれば、悪くないという考え方もできます。超音速移動によって、重要な商談を控えて休養を取る「ゆとり」が可能になるというわけです。
では、西行きはどうでしょう?
仮に超高度を飛ぶのでジェット気流の影響が少なく、西行きでも5時間半で行けるという前提で考えてみます。まず、サンフランシスコ朝の8時発だと、羽田は日本時間の「翌日の朝6時半着」になります。これまでは、移動と時差で2日が潰れていたのが、移動ロスは1日で済むという感覚です。
また、夕刻発ですとサンフランシスコ19時発で羽田が「翌日の17時半」となり、これも1日ロスで済みます。ちなみに、西行きの場合は、地球の自転とほとんど同じ速度で飛んでしまうので昼に出発すれば昼に着くし、夜に出れば夜に着くということで、ダイヤ的には自由度が高そうです。
この超音速機、アメリカ大陸の場合は陸上の超音速飛行は今でも禁止されています。ですから、活躍の場面は洋上ルートに限るわけですが、どうやら「羽田=サンフランシスコ」というルートの場合は、かなり効果がありそうです。これに加えて、時差を考える必要のないアジア圏内の「羽田=香港が2時間」とか「羽田=シンガポールが3時間半」といったルートもビジネス的には妙味がありそうです。
70年代の「コンコルド」の際には3機しか発注しなかった(もちろん、後にキャンセルしていますが)JALが、今回は20機発注したというのには、こうした利便性への期待がありそうです。
ただしエンジン3発でマッハ2.2の巡航というのは、いかに最新鋭の設計や素材が投入されるにしても、現在の亜音速機とはエンジンへの負担が全く違うと思います。機体が高温にさらされる点も、気になります。「ブーム」機については、約9000キロで一回給油と短い点検をすれば計1万8000キロは一気に飛べるとしていますが、その後の軽整備がどのくらい時間がかかるかは分かりません。コンコルドの場合も整備費は亜音速機の4倍と言われていましたが、整備の問題は大きなポイントになると思います。
ちなみに、こうした超音速機については日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)も研究を進めています。こちらは、速度をマッハ1.6に抑えると同時に胴体の空力設計にも工夫をしてソニックブームを低減した「静粛型」を目指しており「ブーム」とはコンセプトが異なります。洋上ルート向けの「ブーム」とは別に、陸上ルート向けの「JAXA」というすみ分けができれば面白そうです。
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