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プリンスの素顔を記録した男

ニューズウィーク日本版 / 2017年12月13日 19時0分

少し寝て、スーツを着てロビーに降りると、リムジンが待っていて、東京の何の変哲もない一画に連れていかれた。建物に足を踏み入れると、そこは何と教会だった。

周りの日本人は、私たちにほとんど注意を払わなかった。言葉はちんぷんかんぷんだった。プリンスと一緒に東京の教会で席に座っているなんて、これまでの人生で一番浮世離れした経験だと、思ったものだ。

パスポート用に撮影した写真 AFSHIN SHAHIDI, FROM PRINCE: A PRIVATE VIEW



4, ビジネスの天才
プリンスは音楽だけでなく、ビジネスの才能にもたけていた。私は最初の頃、撮影したプリンスの写真を通信社に無償で提供して配信させていた。写真の使用料で儲けようとは思っていなかった。撮影は、あくまでもプリンスの依頼を受けてのこと。新譜や公演の宣伝のために、メディアには自由に写真を使ってもらおうと思っていた。

ところが、あるときプリンスに言われた。「どうしてただで使わせてしまうんだ?」。プリンスはお金が欲しかったわけではない。私に商売の知恵を伝えようとしていた。

「宣伝のためですよ。そういうものなんです。雑誌の編集部は、通信社で写真を探してそれを誌面に載せるんです」と、私は答えた。プリンスは言った。「違う。俺はプリンスだ。向こうから写真を欲しいと言ってくる」

そこで、私は写真の使用権を売るためのウェブサイトを立ち上げた。すると、どの都市で公演を行っても、写真を使わせてほしいと地元紙が連絡してくるようになった。

5, ビリヤードも天才
確か、シカゴだったと思う。大きな公演の後でクラブに行くと、そこにビリヤード台があった。「やってみないか?」と、プリンスに誘われた。私は大学時代ずっとビリヤードをやっていて、自信があった。「やりましょう」と同意しつつ、内心は「あまりコテンパンにやっつけないようにしよう」と思っていた。

結果は、私の完敗。手も足も出なかった。プリンスは素晴らしい腕前の持ち主だった。しかも、それを鼻高々に見せつけた。

04年のロックの殿堂の式典を控えて AFSHIN SHAHIDI, FROM PRINCE: A PRIVATE VIEW

6, プリンスの朝
ある朝、ペイズリーパークを訪ねた。約束の時間どおりだったけれど、いつもより早い時間だった。スタジオのスタッフの誰かがドアを開けてくれるものと思っていたのに、ベルを鳴らしても誰も出ない。もう1度鳴らすと、ようやくドアが開いた。そこにいたのは、プリンス本人だった。

頭にはドゥーラグ(布のキャップ)、足は室内履き。明らかに、いま起きたばかりに見えた。私は思わず笑ってしまった。

「何がそんなにおかしい?」と、プリンスが言った。戸惑っているように見えた。「あなたがドアを開けてくれるなんて、夢にも思っていませんでした。ユーモラスな状況だと思ったんです」と、私は答えた。「そうか。今回は特別だと思ってほしい」と、プリンスは言った。

けれども、それから数回は、いつもプリンスがドアを開けてくれた。そして、そのたびに言われた。「今回は特別だ」

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[2017.12.12号掲載]
ザック・ションフェルド(カルチャー担当)


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