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アルツハイマー病に効く? 意外な薬

ニューズウィーク日本版 / 2018年1月20日 14時20分

<糖尿病の治療薬を投与したマウスの脳機能が改善、「不治の病」に苦しむ患者に希望をもたらす可能性が>

アルツハイマー病はアメリカ人の死因第6位を占める病気。米アルツハイマー病協会の報告によれば、現在の患者数は推定550万人以上に上る。患者は高齢者人口の増加に従ってますます増えるとみられているが、現時点では効果が科学的に証明された治療薬や治療法はない。

そんな状況を変えるかもしれない新研究が先頃発表された。もともとは糖尿病治療用に開発された薬が、アルツハイマー病のマウスの記憶障害や脳の変性を大幅に改善することが、新たな動物実験によって示されたのだ。人間への効果が証明されれば、この薬がいつの日か、アルツハイマー病やほかの記憶障害の治療に使えるかもしれない。

1月初め、学術誌ブレインリサーチに発表された今回の研究で、英ランカスター大学のチームは糖尿病治療薬がアルツハイマー病のマウスに効果を発揮するかを試した。アルツハイマー病に関連する遺伝子を発現するよう操作したマウスの加齢を待ち、病気が進行して脳機能に障害が現れてから実験を開始した。

研究チームはその状態のマウスに、「トリプルアゴニスト」と呼ばれる糖尿病治療薬を投与。その後、記憶力や学習能力を検証するための迷路実験を行った。

すると、アルツハイマー病の症状を見せていた高齢マウスは投薬後、学習能力や記憶力が改善。生物学的レベルでも明らかな結果が出た。アルツハイマー病に特徴的な、タンパク質「アミロイドβ」の脳内の蓄積が減少していたのだ。加えて、脳神経細胞の消失は全体的にゆっくりになり、保護作用は高まった。

この糖尿病治療薬が「アルツハイマー病など慢性神経変性疾患への新たな治療法に適用できるという証拠だ」と、研究を率いたランカスター大学のクリスチャン・ホルシャー教授は言う。

脳の成長障害を改善する

最近15年間にわたってアルツハイマー病の新薬は登場していない。それだけに、今回の結果は一層意義深い。



治療薬「トリプルアゴニスト」は、GLP-1、GIP、グルカゴンという3つの「成長因子」を合成したもの。成長因子とは本来、細胞の成長や増殖を促進する物質で、体内に多数存在する。今回の治療薬の成長因子は特に、マウスの脳の成長に影響を与えた。アルツハイマー病患者の脳は成長障害の状態とみられるため、その効果は明らかだと、研究チームは言う。

アルツハイマー病の成長障害は、脳神経細胞の機能をゆっくりと奪う。だが今回のマウス実験では、脳の成長障害が予防でき、改善すら見られた。

糖尿病とアルツハイマー病の関係は、実はそれほど意外なものではない。糖尿病では血糖をコントロールするホルモンであるインスリンの働きが悪くなる。インスリンは細胞の増殖を促す働きもあり事実上、成長因子の役割をする。トリプルアゴニストがもともと糖尿病治療薬として開発されたのはこのためだ。その上、糖尿病患者はそうでない人に比べアルツハイマー病を発症する可能性が高いとの報告もある。

「不治の病」アルツハイマーを克服するため、あらゆる可能性を探る努力が続けられている。

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[2018.1.23号掲載]
デーナ・ダビー

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