インドネシア、警察が同性愛者に「男性復帰」を強制指導
ニューズウィーク日本版 / 2018年1月31日 15時0分
アチェ州ではシャリア法に基づき、イスラム教徒の女性は頭部を覆うヘジャブの着用が義務付けられ、婚外性交渉、公共の場での夫婦以外の男女の親密な行為、夫婦以外の男女のホテル同室宿泊、未成年者との性交、そして同性愛は宗教警察により厳しく取り締まられる。
2017年5月には同性愛行為をしたとして男性2人が宗教警察に逮捕され、むち打ち刑82回の実刑判決を受けたこともある。
アチェ州以外では同性愛は違法ではない。しかし大多数を占めるイスラム教徒の倫理観、価値観が優先される傾向があり、2017年10月には首都ジャカルタの市内にあったサウナ施設が強制捜査を受けて、同性愛者の客と従業員、オーナーの58人が逮捕された。
この時もやはり周辺住民から警察への情報提供が端緒で、「男性同士の売春行為が行われている」として強制捜査となった。逮捕者の中には中国人、タイ人、オランダ人の外国人6人が含まれ、直接の容疑は反ポルノ法と麻薬取締法違反だった。
こうした傾向に対し、より厳しい取り締まりを主張するイスラム教団体もある一方、人権保護の立場から「社会がよりLGBTを理解し寛容の精神をもつことが必要」とする組織も増えてきている。
しかし、自身もイスラム教徒であるジョコ・ウィドド大統領は、この問題には寛容と言われながらも実際には取り組みに消極的。今年と来年に控えた統一地方首長選、国会議員選挙、大統領選挙に向け、あえてイスラム教団体を敵に回すような「火中の栗」を拾うことを自重しているとの見方が有力だ。LGBTにとっては厳しい環境が続きそうだ。
今回のアチェ州での同性愛者の拘束と「男に戻る措置と再教育訓練」は明らかにLGBTの人々の「人間性、尊厳を侵害するものであり、なにより重大な人権侵害にあたる」と国際人権団体アムネスティのインドネシア支部、ウスマン・ハミド代表はメディアに対し指摘し、批判している。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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