トランプ政権の新国防戦略をうのみにするな
ニューズウィーク日本版 / 2018年2月1日 10時0分
対中コンセンサスがない
しかし日本にとって悩ましいのは、国家安全保障戦略も国家防衛戦略も、中国に対する非常に厳しい言及の一方で、中国と正面から戦争する意思はないことも明らかにしている点だ。つまり、中国を「戦略的競争相手」として警戒しつつ、アメリカはギリギリのところで中国との武力衝突を望んでいない。
むしろこれらの戦略文書では、中国との武力衝突に至る事態を回避するため、米中関係において中国がアメリカと事を構える気を起こさないよう対中優位を保ち、効果的な抑止力を維持するためにはどうすればよいのかにポイントが置かれている。
警戒感をあらわにする割には本気で事を構える気もない――見る人によっては中途半端なスタンスだ。これは台頭を続け、かつ既存の国際秩序にとって代わる新秩序の構築を試みようとしている中国の勢いをアメリカが止めることができるのか、万が一勢いを止めるすべがない場合はどう対抗すべきなのかという点について、アメリカ国内でコンセンサスがないことの反映でもある。
現政権の戦略文書が示す対中感をうのみにして日本が突っ走ってしまうと、思わぬところで足をすくわれかねない。
「アメリカ・ファースト」「同盟国との関係重視」「中国との正面衝突回避」を全て両立させる――18年以降のトランプ政権にとって非常に対応が難しいテーマだが、この流れをいかに正確に読み取り、日本の立ち位置を決めていくのか。安倍政権にとっては、微妙な判断を迫られる局面が多い2018年になるだろう。
<本誌2018年2月6日号[最新号]掲載>
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辰巳由紀(米スティムソン・センター日本研究部長、キャノングローバル戦略研究所主任研究員)
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