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慈善団体オックスファムの買春を大目に見るな

ニューズウィーク日本版 / 2018年2月23日 15時45分



そんな主張は真実ではなく、正当な理由になるとも思えない。過酷な環境で活動する支援団体は数多いが、オックスファムの場合は援助物資の提供だけに熱心なわけではない。少なくとも同じくらいの熱意で、彼らは反資本主義のロビー活動に取り組んでいるように見える。

今回のスキャンダルの本質は悪質な職員の存在ではなく、事件を隠蔽し、問題の職員をひそかに転任させた組織の体質にある。買春などの行為は、少なくとも全面的にはその場で報告されてはいない。援助団体への助成金を増やすのであれば、自らの主張の宣伝ではなく、学校や病院の建設、被災地支援にカネを使う団体に与えるべきだ。

2つのスキャンダルへの反応に、これほど差が生まれた理由は何か。答えは人間の思い込みだろう。私たちは潜在意識レベルで、人々を「善」と「悪」に二分してしまう。リッチな実業家は援助活動家より同情を寄せにくい存在であり、彼らを見る目はより厳しくなる。

見ないふりの果ての愚行

しかし逆説的な話だが、ある組織を大目に見たら、その組織は劣化する。援助活動に取り組むという倫理的優越性に世論の甘い目が加わったとき、身を律することができる組織などほとんどない。大規模な支援団体の活動を間近で目撃する貧困国の人々にしてみれば、今回の事件は特に驚きではないはずだ。

いい例が国連だ。国連関係者が援助物資と引き換えに、地元住民に性交渉を要求するなどの事例が発覚しているが、国連は国際平和を体現するイメージのおかげで、政府や民間組織が同様の行為をした場合ほど大きな非難にさらされていない。

ブレグジット(イギリスのEU離脱)の是非を問う英国民投票では、特に若年層の間でEUが「神聖視」されている実態が浮かび上がった。不適切な運営や説明責任の欠如、明らかな腐敗にもかかわらず、彼らにとってEUは良きものだ。反EU論者は人種差別主義者と見なされ、どんな批判も政治的動機に基づくものと断じられる。

こうした見て見ぬふりが極端化すれば、スターリン主義時代の愚行につながる。当時の欧米の知識層はソ連のスターリンの非道に目を向けることを拒んだ。共産主義者は理想を目指している、その実現に多少の犠牲は付き物という論理で、だ。

オックスファムの事件も同様の展開をたどるだろう。しばらくすれば全ては忘れられ、いずれ新たなスキャンダルが持ち上がる。権力を持つこの手の団体の体質そのものが、問題を引き起こしている可能性については誰も真剣に論じようとしない。そんな在り方は、いささか不健全だと思えるのだが。

<本誌2018年2月27日号[最新号]掲載>

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ダニエル・ハナン(ジャーナリスト)


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