戦略なき欧米諸国の対ロシア包囲網
ニューズウィーク日本版 / 2018年4月7日 11時40分
<ロシアの元スパイ暗殺未遂から外交官追放の報復合戦へと発展したが、イギリスは本気でプーチン支配の弱体化を目指すのか>
3月4日にロシアの元情報部員セルゲイ・スクリパリとその娘が英南部ソールズベリーで神経剤を投与された殺人未遂事件について、英政府は当初、やや腰が引けた対応をしていた。だがそのうち、イギリスを筆頭に欧米諸国は相次いで、自国に駐在するロシアの外交官や当局者に国外退去を命令。その規模は100人を超えている。
対ロシア制裁をめぐる議論は、政治的にどこまで実現可能かという話が中心だが、イギリスは最も根本的な問題を避けている。すなわち、イギリスが本当は何をしたいかだ。目的が戦術を決めるのであり、その逆ではない。
現在の制裁の議論は、3つの大きな目的を混同している。
まず、イギリスの最大の目的は、ロシアを牽制することなのか。ロシアに報復する決意を明確に示し、政治や外交の冒険主義は得られるものより代償のほうが大きいと、ウラジーミル・プーチン大統領に警告することなのだろうか。
外交官の追放、今夏にロシアで開催されるサッカーのワールドカップのボイコット、ロシアをテロ支援国家に指定するといった措置は、実際に与える影響はそれほど大きくなさそうだ。それでも、対抗する意思をロシアに表明することになる。
プーチンは今のところ、欧米諸国の軍事力、経済力、ソフトパワーという客観的な力も、行使する意思がなければほとんど無意味と踏んでいるようだ。この「意思のギャップ」を埋める姿勢を明確に示すことは、抑止力の強力な要素となる。
もちろん、短期的にはロシアも同様の措置で対抗するだろう。これまでの実績を考えれば、報復はエスカレートし、欧米諸国はプーチンを挑発した代償として受け止めるしかない。
ロンドングラードの闇
あるいはイギリスは、権力者が国を私物化するというロシアの泥棒政治が及ぼす不健全な影響から、自国を守りたいのだろうか。英国内で起きたロシア絡みの暴力事件の大半はロシアの政府に関係する以上に、犯罪社会とビジネス界との密接なつながりに関連していると思われる。
「ロンドングラード」と呼ばれるイギリスのロシア人コミュニティーは、モスクワのエリート層のマネーロンダリング(資金洗浄)に利用されている。そこでの出来事はイギリス社会に影響を与えるだけでなく、ロシアの犯罪政権を助長してもいる。
これに対抗するには、もっとはっきりと現金を標的にするべきだ。この手の資金の捜査は複雑で長期に及ぶ。イギリス版FBIといわれる国家犯罪対策庁(NCA)などの法執行機関が、ロシアの汚れたカネを追跡するにはそれなりの予算と裁量権が必要だ。
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