「ISIS憎し」のイラク政府が即決裁判で大量死刑宣告
ニューズウィーク日本版 / 2018年4月10日 16時50分
<テロ組織に少しでも関わればコックも医師も死刑に――執行も迅速化させるイラクに懸念の声が高まる>
4年以上にわたるテロとの戦いで、拘束者が増え続けているイラク。何千人もの被告を裁くため司法の負担が膨れ上がるのに伴い、人数を減らす試みも進んでいる――処刑だ。
イラクは13年以降、テロ組織ISIS(自称イスラム国)やその他の過激派組織とつながりがあるなどとして、3130人の拘束者に死刑判決を下した。18年1月までのイラク全土の収監者2万7849人の集計を基にしたAP通信の分析によると、少なくとも1万9000人がテロ関連容疑で拘束されているという(集計データは匿名の政府関係者から入手)。
死刑判決を受けた者の中には、ISIS指導者アブ・バクル・アル・バグダディの姉妹や外国人戦闘員らも含まれる。
これらの拘束者のうち8861人はテロ関連の罪で、イラク情報機関関係者によればその大多数がISIS関係者。残りの1万1000人は、現在取り調べ中か裁判待ちの状態だ。
国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イラクが反テロ法を過剰に適用しているせいで、筋金入りの戦闘員だけでなくISISとの関係性が限りなく薄い人々まで拘束している可能性があると懸念する。
「政府高官の誰一人、アバディ首相でさえ、拘束者の総数を把握していないようだ」と、同団体イラク担当上級研究員のベルキス・ウィリーは言う。
それどころかアバディは、判決後の死刑執行を加速するよう指示している。14年以降で250人が絞首刑に処され、うち100人は17年に執行。迅速化の意思を見せつけている。これに対し国連は、冤罪のリスクが増えると警告する。
死刑判決は、テロ実行犯だけでなく、テロ組織の一員だったりテロ組織を支援したりした者にも下されている。中には専属コックやISIS運営の病院で働いていた者なども含まれる。
「司法当局はISIS統治下で人の命を救っていた医者の過失責任と、人道に対する罪を犯した者とを区別できていない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東責任者サラ・リア・ウィットソンは言う。
収容施設が過激派拠点に
こうした指摘に対し政府広報官は、「全ての犯罪者とテロリストに徹底して公正な刑罰を科している」と主張する。だが膨れ上がる拘束者に政府は時間も同情もかける様子はなく、30分未満の即決裁判で死刑判決が下されているケースもある。
アメリカがイラク占領中に痛感したことだが、多くのテロ容疑者を一度に同じ場所に収容すると、予期せぬ結果を生む可能性がある。現在のISIS指導陣には、かつて南部のブッカ収容所で同時期を過ごした者が多い。収容施設が、過激派のネットワークとイデオロギーを広める場になっていたわけだ。
現在、北部モスル周辺の収容施設でも、収容者が過激派の教義を広め、電波妨害をかいくぐって外部と連絡を取り合う様子が確認されている。
拘束や死刑宣告されるのは、圧倒的にスンニ派ムスリムが多い。フセイン政権崩壊後のイラクで虐げられたスンニ派は、当初ISISを解放者として歓迎した。今、多くのスンニ派が拘束され、ISISとのわずかながらの関係によって処刑されている様子を見ると、政府は同じ過ちを繰り返しているようだ。
あるイラク政府高官は、過去の失敗は繰り返さないと自信を見せた。「アメリカは拘束者を解放したから失敗した。われわれは、彼らを皆、死刑にする」
[2018.4.10号掲載]
デービッド・ブレナン
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