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UFO目撃情報とフェイクニュースの共通点

ニューズウィーク日本版 / 2018年4月24日 18時0分

<20世紀に米軍が集めた情報には科学者たちと目撃証言を無視されたくない一般人のせめぎ合いがあった>

ペンシルベニア大学で博士号取得を目指すケイト・ドーシュの研究対象は「米政府が集めたUFO(未確認飛行物体)の目撃情報」。だが彼女の関心は異星人にはない。そもそもドーシュの専攻は歴史学だ。

米空軍は冷戦期の初め頃にUFOの目撃情報を集め始め、1966年には一般市民から寄せられた目撃情報のさらなる調査をコロラド大学に委託した。このプロジェクトは3年後に終了し、資料の一部はフィラデルフィアで保管された。

この資料を3年前から調べているドーシュが見たもの、それはUFOの目撃者たちと、彼らを信じない科学者たちのせめぎ合いだった。この対立の図式は、現代のフェイクニュースや地球温暖化をめぐる議論と驚くほどよく似ている。

科学者たちは空飛ぶ円盤の存在など頭から認めようとせず、目撃者をいかれた人間扱いした。一方で目撃者たちは、自分たちの証言を真面目に受けとめてほしいと訴えた。「この目で見たんだ。私は信頼に値する人間だし、酔っ払ってもいない」と。ドーシュによれば「私は教育水準の高いアマチュア天文学者だ」といったふうに、目撃者が自分の人となりを説明する発言も多かったという。

UFOの存在を信じる一般人と、目撃情報の誤りを暴こうとする科学者の間に溝を生んだのは科学の進歩だ。かつて科学的な新発見をもたらしたのは単純な観察だった。ノートを取り、予測をするという誰にでもできる行為だった。

だが20世紀半ばになると科学は各分野へと細分化され、極めるにはそれぞれに異なる専門知識が必要になった。何かを知っていると言うだけでは信頼してもらえず、専門家は学位や論文や著書に基づいて互いを評価するようになった。

それに伴い、一般人は「エセ科学者」にだまされやすくなった。エセ科学者とはあたかも信頼できる専門家のようなふりをして、科学的には正しくない情報を一般に広めようとする人々。テレビなどに出ては、いい加減な話をするものだからたちが悪い。

「偉い人たちは自分たちの話を聞いてくれない、と感じている人々がいる。彼らは『あなた方の感じていることは本当ですよ』と言ってくれる相手を探している」と、ドーシュは指摘する。ここからは「情報源」を慎重に見極める重要性も見えてくる。「誰を信頼するかによって、手にできる情報も変わってくる」



自分と相いれない意見を否定するためなら何にでも飛び付く、という風潮の根も同じところにある。例えば最近、地球温暖化はかつて考えられていたよりゆっくり進行しているとの見解が出てきた。これは決して気候変動を否定するものではないが、否定論者の中にはあたかも自分たちに有利な証拠が出てきたかのように主張する者がいる。

今も昔も、市井の人々は偉い人々から間違いを指摘されることも、無視されるのも好まない。「問われているのは、何をもって信頼に足る専門知識と認めるかという点だ」とドーシュは言う。そこの詰めが甘いと、耳に心地よい言葉に安易に乗せられてしまいかねない。

[2018.4.17号掲載]
メーガン・バーテルズ

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