イランから撤退せよ──トランプ政権からの「指図」にドイツ企業反発
ニューズウィーク日本版 / 2018年5月10日 18時45分
<トランプがイラン核合意からの離脱を表明したのと同日、ドイツに着任したばかりの米大使が「ドイツ企業はイランから撤退せよ」と上からツイート>
ドナルド・トランプ米大統領が新たに任命した駐独米大使が、着任後わずか数時間でドイツ企業を敵に回す発言をし、その外交手腕に早速疑問符が付いている。
その大使、リチャード・グレネルは5月8日にドイツの首都ベルリンに歓迎された直後、トランプが同日に発表しヨーロッパに衝撃を与えたイラン核合意からの離脱を持ち出してドイツ企業を脅迫した、と米紙ワシントン・ポストは報じている。
核合意から離脱して対イラン制裁を復活させる、とするトランプの決定は、ヨーロッパの企業を苦境に立たせている。ヨーロッパからの核合意への参加国である英独仏の3カ国は、アメリカ抜きでも合意を維持する意向だが、イランと取引を続けるヨーロッパの企業も、アメリカによる経済制裁の対象になる恐れがある。
駐独米大使館が新大使の着任を公式ツイッターで発表した1時間後、グレネルは自身のツイッターに投稿した。「イランで事業を行っているドイツ企業は直ちに撤退すべきだ」
米独関係は悪化の一途
これを米大使による脅迫、と受け止めたドイツ企業のトップらはすぐに反発。「大使に向かって外交の指南をするのは私の役目ではないが、彼(グレネル)は指導を受けたほうがよさそうだ」と、中道左派の連立与党、ドイツ社会民主党(SPD)のアンドレア・ナーレス党首は言った。
ドイツ・イラン商工会議所のマイケル・トックス議長も批判した。「ドイツの外務大臣は米大使に対し、ドイツ企業に指図することも脅迫することもあなたの任務ではない、と忠告するはずだ」
ミュンヘン安全保障会議のヴォルフガング・イッシンガー議長も警告した。「ドイツ人は他人の話に耳を傾ける方だが、あれこれ指図されれば憤慨するだろう」
2016年の米大統領選でトランプが勝利して以降、アメリカとドイツの関係は悪化の一途をたどっている。トランプはアメリカが長年にわたり巨額の対独赤字を抱えてきたのを根に持っているようで、トランプとメルケルの相性の悪さもあって、関係改善の兆しがほとんどない。
メルケルは4月下旬に訪米した際、アメリカが核合意から離脱すれば戦争になる恐れがあるとトランプに警告していた。さらに新任大使の脅し発言で、両国間の溝は一層広がりそうだ。
イランが核開発を制限するのと引き換えに、欧米諸国が長年の対イラン経済制裁を解除するという「包括的共同作業計画」(JCPOA)、いわゆる核合意が2015年に締結されて以降、イランはヨーロッパとの経済的な結び付きを強めてきた。
核合意から1年以内に、イランからEUへの輸出は375%も増加した。ヨーロッパの企業は3年前から対イラン投資を行ってきたが、アメリカが制裁を再開させれば大損失を被る公算が高い。
ドイツ企業はイランに対し、産業機械、化学物質、電子機器、その他の高級品を主に輸出している。2017年1~10月の輸出額は、28億ドル相当に上った。逆にイランからの輸入は3億2800万ドルで、ドイツの大幅な黒字だ。アメリカが制裁を復活させれば、大きな収入源を失うことになる。
(翻訳:河原里香)
【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>
デービッド・ブレナン
この記事に関連するニュース
-
イラン大統領、敵対姿勢やめれば「米国も兄弟だ」…異例の発言で制裁解除など呼びかけ
読売新聞 / 2024年9月17日 17時21分
-
イランが「宿敵」との核交渉に応じる可能性...ハメネイ師「障壁ない」発言は方向転換のサインか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月2日 14時54分
-
長崎市の「イスラエル不招待」が、日本への悪評につながってしまった理由。今後の日米関係はどうなる?
オールアバウト / 2024年8月23日 20時35分
-
北朝鮮の監視以外にも! ドイツ艦隊はるばる来日のワケ 驚きの「日独伊」共同訓練その中身
乗りものニュース / 2024年8月22日 16時12分
-
イランが対日関係「全面強化」 新外相、米国との緊張抑制目指す
共同通信 / 2024年8月22日 7時30分
ランキング
-
1中国の危険情報「レベル0」維持 外務省「見直しは検討していない」子供連れには注意喚起
産経ニュース / 2024年9月20日 17時46分
-
2ベルリンの慰安婦を象徴する少女像、地元区長が撤去求める考え…韓国系市民団体と協議へ
読売新聞 / 2024年9月20日 19時28分
-
3深圳日本人学校の男児殺害に日本はもっと怒るべきだ
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月20日 15時58分
-
4ヒズボラとイスラエルの全面戦争、「不可避ではない」 マクロン氏
AFPBB News / 2024年9月20日 11時57分
-
5中国、日本の水産物「輸入を徐々に再開する」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年9月20日 16時13分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください