在韓米軍の撤退はジレンマだらけ
ニューズウィーク日本版 / 2018年5月11日 16時20分
追い詰められたカーターは、米韓朝の3カ国首脳会談開催に望みをかけた。79年6月に予定されていた韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領との首脳会談を直後に控えての試みだった。しかし首脳会談開催という手はあまりに遅過ぎ、成果にはつながらなかった。
在韓米軍は今でも、より広い枠組みの一部として位置付けられている。そこでは、日本の防衛と日米同盟関係がとりわけ重視されている。仮に米軍が韓国から撤退し、しかもそれが日本への配慮に欠ける形だった場合には、日本の軍事力増強の姿勢に拍車が掛かるかもしれない。
トランプは、日韓両国が核兵器を開発しても構わないという軽率な発言もしている。仮に日本が軍備を強化すれば、中国の軍事的な野望や国防費の支出にも弾みがつくだろう。
指揮系統をめぐる葛藤
トランプは、バラク・オバマ前米大統領の「アジア回帰」政策を、自らの「自由で開かれたインド太平洋」戦略に塗り替えた。その際トランプの頭にあったのは、覇権を狙う中国の野心だ。在韓米軍は、そんな広域の軍事力バランスの一要素なのだ。
国外の米軍基地として世界最大となる韓国の京畿道平沢のハンフリーズ陸軍駐屯地は、既に完成に近づいている。アメリカに朝鮮半島への関与を解消したいという願望があるとしても、その一方には中国の拡張主義に対抗したいという考えもある。
南北間で平和協定が成立すれば、現在の国連軍、あるいは国連軍が担う休戦協定の維持という責務は消滅する。それでもカーター時代に平和協定締結に反対した勢力が見越していたように、駐留軍を指揮する軍人は国連軍の指揮系統における統制の弱体化や矛盾に直面するだろう。
南北関係が穏やかになり、それに伴って駐留米軍が縮小されれば、韓国軍の指揮系統における責任は拡大する。戦時における自国軍の作戦統制権を取り戻すことになるからだ。
そこでトランプはどう出るのか。完全に米韓同盟を解消するのでもない限り、米軍は韓国軍の作戦統制下に入る可能性がある。その点を議会や国民にどう納得させるのか。
軍隊の作戦準備を整えるには、統一された指揮系統が必要だ。果たしてトランプは、米軍の将軍が韓国軍将校の副官になる構図を受け入れるだろうか。
受け入れないなら、トランプは日本などの同盟国から強い反発を招く。韓国に対して歴史的な調整を要請することにもなる。韓国は独立国でありながら、侵攻されて滅びかけた1年間を例外として、米軍に守られるという状態しか経験していない。
トランプもその他の関係者も、まず平和への努力に傾注するかもしれない。その場合は段階的に、米軍撤退は時間をかけて実現へ向かう。
北朝鮮の指導部は、韓国側と対等の立場で協議することに前向きなようだ。韓国政府の正統性を認めることを拒んだ時期に比べれば、平和な状況だ。
ただこれらは全て、駐留米軍をめぐるジレンマを解決するための時間稼ぎでしかない。答えを出す方向に動くか否かは、あくまでトランプ政権次第だ。
From Foreign Policy Magazine
<本誌2018年5月15日号[最新号]掲載>
クリント・ワーク
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