借金漬けのアメリカに「国債危機」が迫る
ニューズウィーク日本版 / 2018年5月14日 9時20分
<膨らむ財政赤字、見放され始めた国債――米経済の危う過ぎる現在>
減税と歳出拡大のツケで、アメリカの財政赤字は記録的なレベルに達している。そんななか、外国人投資家が米国債の購入に後ろ向きになり始めた。
4月30日、米財務省は今年1~3月期の米国債発行額が約4880億ドルだったと発表。同四半期としては過去最大で、当初の予想を470億ドル上回る。
好況のさなか、債務が前代未聞の規模に膨れ上がる現状には危険が潜む。外国人投資家による米国債需要は16年11月以降で最低。米国債の外国人保有比率は08年には約55%を占めていたが、今や43%にまで低下している(保有額合計は6兆3000億ドル)。
「外国勢が国債を買ってくれなければ、現在の成長率とこれほど悪い財政見通しのなかでアメリカが存続することは不可能だ」と、米債券運用大手ルーミス・セイレスのアンドリア・ディセンゾ副社長は指摘している。
米国債を購入する外国人が減れば、米国内の投資家はその分の穴埋めをすることを迫られ、アクティブ投資ができなくなる。国債発行のせいで民間の経済活動が悪影響を受ける「クラウディングアウト」という問題だ。
「国債購入にカネを回すために企業などへの投資が犠牲にされる」。超党派の調査機関「責任ある連邦予算実現のための委員会」の政策担当上級責任者、マーク・ゴールドワインはそう説明する。「その結果、GDP成長率も賃金上昇率も鈍化する」
トランプ政権による大型減税で、アメリカの歳入は今後10年間に1兆9000億ドル減少。さらに、さまざまな歳出法案のせいで1兆3000億ドルがかかる見込みだ。財政赤字は20年までに1兆ドルを突破すると予想されている。
中国の「脅し」も懸念材料
この傾向が続けば、どこかの時点で外国人の米国債離れが国内投資家の購入ペースを上回り、パニック的事態になると、ゴールドワインは言う。「国債利回りが急激かつ大幅に上昇するかもしれない」。例えば利回りが2%から5%に上がれば、発行済みの国債の価値は低下する。
08年の金融危機の引き金の1つは、住宅ローン証券化商品の大量売却と価格急落だった。
「可能性は低いものの、米国債の大量売却がもし起きたら、08年の金融危機とは比較にならない深刻な事態になるだろう」と、ゴールドワインは危惧する。
中国という懸念材料もある。世界最大の米国債保有国(保有額は約1兆1800億ドル)である同国は、貿易戦争をちらつかせるトランプ政権にさらなる圧力をかけるため「国債カード」を切る可能性がある。崔天凱(ツォイ・ティエンカイ)駐米中国大使は3月、米国債購入の減額に踏み切る選択肢も排除しない、と米メディアに語った。
ムニューシン米財務長官は財政赤字拡大や中国の行動を不安視していないという。4月末には、「(米国債市場は)巨大で堅調で、世界で最も流動性が高い。供給は多いが、対処は容易だと考えている」と発言した。
しかしIMFは警鐘を鳴らしている。「経済活動が既に好転している時期に、景気に不必要な刺激を与える税制政策は避けるよう提言する。先進国や新興国、低所得の途上国は財政計画を実現し、赤字と債務を減少軌道に乗せるべきだ」。IMFのビトール・ガスパール財政局局長らは4月、IMFのブログでそう指摘した。
さもなければ、待っているのは暗い未来。IMFの予測によれば、アメリカの財政赤字のGDP比は23年までに、欧州の赤字大国イタリアを超える。
[2018.5.15号掲載]
ニコール・ストーン・グッドカインド
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