トルコの強権エルドアンに対峙する新星は「クルドのマンデラ」
ニューズウィーク日本版 / 2018年5月22日 17時30分
<6月24日のトルコの選挙ではエルドアン大統領と与党の勝利が確実な情勢だが、若きクルド人指導者への指示が広がりつつある>
トルコ政府は、6月24日に大統領選と議会選を前倒しで実施することを決めた。大方の予測によれば、エルドアン大統領の再選と与党・公正発展党(AKP)の勝利は固い。主要な野党はあまりに弱く、政権はメディアを完全にコントロールしており、万一の場合には選挙結果を操作する力も握っている。
しかし、エルドアンにとって明るい材料ばかりではない。その強権的な手法が反発を買い、クルド系左派政党である国民民主主義党(HDP)のセラハッティン・デミルタシュ前共同党首の政治的威信と影響力が高まりかねないのだ。デミルタシュは、南アフリカの黒人解放運動の指導者として尊敬を集めたネルソン・マンデラのような存在になる可能性すらある。
デミルタシュも、6月の大統領選への出馬を表明している。しかし、16年11月以降、テロ教唆・支援の疑い(冤罪の可能性が高い)で拘束されている。この容疑により、最長で142年の禁錮刑を言い渡される可能性もある。まだ有罪が確定していないので立候補は認められるが、支持者との連絡は制限されるだろう。
エルドアン政権は、クルド人の政治運動から指導者を奪い、穏健で理性的なクルド人リーダーの台頭を防ぐために、さまざまな容疑を捏造してHDPの幹部たちを続々と収監。3月前半の時点で、HDPのメンバーの約3分の1(1万2000人近く)が拘束されている。関係者の逮捕や閉鎖命令により、クルド系のメディアやNGOも弱体化した。
長期投獄も釈放も厄介
トルコの人口の18~20%を占めるクルド人は、1923年のトルコ共和国樹立以降、数々の迫害を受け、基本的な権利を否定されてきた(クルド人は近隣のシリア、イラク、イランの領内にも居住している)。
今では、トルコ人の左派系の有権者や学生、中流層の中にも、デミルタシュを支持する人がいる。彼が登場するまで、クルド人以外の有権者から支持を獲得できたクルド人政治家はいなかった。
デミルタシュは、若くてテレビ映りがよく、鋼の意志を持った政治家だ。被告人として臨んだ法廷では、法律の専門知識と弁舌を武器に政府の主張を完全に打ち砕いた。この点も、南アフリカで迫害されていた頃のマンデラを連想させる。
デミルタシュはトルコ人とクルド人の共存を訴えることで、トルコの政治に新風を吹き込んだ。HDPは、トルコ政府に対して武力闘争を続けてきたクルド労働者党(PKK)の支持者に加え、これまでAKPを支持してきた保守系クルド人の支持も得ようとしている。エルドアンが国内外でクルド人への敵対的な政策を実行してきた結果、最近は保守系クルド人のAKP離れも見られる。
いまエルドアンは、ジレンマに直面している。司法を完全に統制下に置いているので、デミルタシュを釈放するか、獄中につなぎ留めておくかは自由に決められるが、どちらを選んでも好ましい結果は待っていない。
デミルタシュを釈放すれば、最も手ごわい政敵に自由を与えることになる。しかし、獄中にとどめ置き、立候補の権利を否定すれば、国内のデミルタシュ支持者だけでなく、外国政府や国際NGOの反発を買う。
そして、事実無根の罪で長期間投獄すれば、デミルタシュがカリスマ性を獲得し、「クルドのマンデラ」になる可能性がある。エルドアンにとっては望ましくないシナリオだろう。
From Foreign Policy Magazine
[2018.5.22号掲載]
ヘンリ・バーキー(リーハイ大学教授)
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