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なぜイタリアはテロと無縁なのか

ニューズウィーク日本版 / 2018年5月24日 16時20分



攻撃の足場として利用

イタリア当局は「疑わしきは追放せよ」という方針を取っていると、安全保障と国際関係の専門家フランチェスコ・ストラッツァリは言う。「市民権があれば、おいそれとは逮捕できないが、非市民なら些細な理由で追放できる」

とはいえ、警察の取り締まりが万全だからテロが起きないと結論付けるのは早い。テロリストがイタリアを足場にして、近隣諸国で大規模な攻撃を成功させた事例はいくつもあるからだ。

17年6月にロンドン橋で通行人を次々に車ではねた3人組の1人、ユセフ・ザグバはモロッコ系イタリア人で、16年まで家族と共にボローニャに住んでいた。彼は16年3月、ボローニャの空港でトルコ行きの飛行機に乗ろうとして警察に止められた。シリアでISISに加わる疑いが持たれたからだ。しかし証拠不十分で逮捕には至らず、イタリア国籍を持つため国外追放処分にもならなかった。

16年12月にベルリンのクリスマスマーケットにトラックで突入したチュニジア人アニス・アムリも、11年に祖国からイタリアに渡り、放火などの罪で4年間イタリアの刑務所で服役した経歴がある。イタリア当局は、この間に過激思想に染まったものとみている。彼は15年にドイツに不法入国し、犯行後イタリアに逃れたが、事件の4日後にミラノ郊外で警官に射殺された。

15年11月のパリ同時多発テロの実行犯の1人であるサラ・アブデスラムは、ナポリの「偽造書類工場」で作製された偽造書類を所持していた。この施設は16年3月にブリュッセルで起きた連続テロの実行犯にも偽造書類を提供していたと、イタリア当局はみている。

16年7月に南仏のニースで花火見物客の群れにトラックが突っ込んだ事件の実行犯モハメド・ラフエジブフレルもたびたびイタリアを訪れており、イタリアの過激派とつながりがあったとみられている。

後方基地では暴れない

どうやらイタリアの過激派は国内では息を潜め、他国での攻撃に加担しているようだ。なぜか。考えられるのは、国内の監視が厳しいため、犯行を国外に限定しているということだ。イタリア当局は国内のテロ対策には熱心でも、国際的な連携によるテロ封じ込めには消極的だ。

もちろん、疑わしい人物を近隣諸国に知らせる義務は果たしている。ザグバの情報も、EUの安全保障データベースであるシェンゲン情報システムに入力されていた。だが、それだけではイギリス当局が警戒するには不十分だった。テロ事件後、ロンドン警視庁は「警察も情報機関も(ザグバを)監視していなかった」と認めている。



もう1つ、イタリアは過激派にとって魅力的なターゲットではないという事情もありそうだ。イタリアは国際社会であまり存在感を発揮していないと、ストラッツァリは指摘する。ISISが標的としてローマを名指しするとき、狙いはカトリックの総本山である法王庁であって、イタリアの首都を指しているわけではない。

何よりイタリアには、テロ攻撃の拠点として好都合な条件がそろっている。地理的には昔からアラブ世界から西欧に入る玄関口だった。しかもマフィアの本拠地であるため、書類偽造のプロ集団がいる。

そのため国際テロ組織は、イタリアを他国で攻撃を行うための「停泊場所、兵站拠点」にしてきたと、ストラッツァリは言う。「(イタリアはテロの)前線ではなく、後方基地だ。後方基地で暴れるバカはいない」

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年5月29日号[最新号]掲載>

アンナ・モミリアーノ


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