ミサイル発射台の廃棄は、非核化のサインにはならない
ニューズウィーク日本版 / 2018年6月7日 16時23分
<アメリカの北朝鮮分析サイトが、北朝鮮がミサイル発射台を廃棄したとする最新の分析結果を発表したが、読み方は分かれる>
北朝鮮が5月中旬までに主要核関連施設の1つであるミサイル発射台を廃棄していたことが、最新の衛星写真に基づく分析で明らかになった。
米ワシントンを拠点とする北朝鮮分析サイト「38ノース」の研究者が6月6日に発表した分析結果によれば、金正恩朝鮮労働党委員長が核実験と弾道ミサイル実験の中止を表明してから5月19日までに、北朝鮮北西部・亀城(クソン)の北方にあるミサイル発射台が廃棄された。
金は4月に一方的に核・ミサイル実験を中止すると表明した。核実験やミサイル発射を1年近く繰り返した後のことだ。専門家によれば、北朝鮮は2017年だけで、米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含む23発のミサイルを発射。北朝鮮の核開発は急速に進展し、弾道ミサイルに搭載可能な小型核弾頭の製造能力を獲得する日が近い、とする見方も広がっていた。
だが年明け以降、とくに韓国で開催された平昌冬季五輪以降、一触即発の状況が大幅に改善した。まず北朝鮮と韓国の両方が朝鮮半島の平和の実現を目指す方針で一致。ドナルド・トランプ米大統領は6月12日にシンガポールで史上初となる米朝首脳会談に臨み、初対面の金と朝鮮半島の非核化を議論することになっている。
非核化望む北の誠意?
5月24日には北朝鮮が海外メディアを招き、北東部・豊渓里(プンゲリ)にある核実験場を爆破して見せた。ただし専門家は現場に招かれず、核実験場が本当に使用不可能になったかどうかの検証はできていない。
核実験場とミサイル発射台が完全に廃棄されたかどうかは別として、こうした動きは北朝鮮が朝鮮半島の平和構築に本気で取り込もうとしている姿勢の表れだ、と専門家は指摘する。
「核実験場と同様、ミサイル発射台は廃棄しても作り直せるとはいえ、今回の分析結果は、当面の実験中止を宣言した北朝鮮の本気度を裏付けるものだ」と、米NGO国家北朝鮮委員会(NCNK)のダニエル・ウェルツ副所長は本誌に語った。
「北朝鮮がこれまでに発射した長距離ミサイルは、いずれも液体燃料を使っていた。今後、北朝鮮がICBMで固体燃料を実用化すれば、新しい重大な脅威だと米軍の上層部はみなすだろう。液体燃料よりも固体燃料を使ったミサイルの方が移動が容易で、発射準備にかかる時間も大幅に短縮されるからだ」と、彼は言う。「もし北朝鮮が(固体燃料を使った)次世代のICBMの開発をすでに断念したとすれば、良い兆候だ」
だがミサイル発射台の廃棄は、北朝鮮が突如として非核化に取り組んでいるという証拠にはならない、と指摘する専門家もいる。今後本当に試されるのは、北朝鮮が核能力を手放すかどうかだ。
「どんな核関連施設であれ、廃棄するのは素晴らしいが、過度の期待は禁物だ。今回はミサイル発射台の1つが廃棄されたに過ぎず、兵器システム全体やミサイル工場が破壊されたわけではない」、と米ワシントンにあるシンクタンク「センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト」の防衛研究ディレクター、ハリー・カジアニスは本誌に語った。「北朝鮮にとっては、その発射台が不要になっただけで、別の場所に移動するつもりかもしれない」
(翻訳:河原里香)
クリスティナ・マザ
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