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トランプの「非核化」シナリオに深くコミットした安倍首相 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2018年6月13日 16時30分

ですから、今後2018年11月の中間選挙直前と、2020年11月の大統領選の直前という、それぞれのタイミングで事態の進展をドラマチックに演出する必要があります。具体的には、金正恩のホワイトハウス訪問、トランプの平壌訪問という可能性で、その際に「解決」を段階的に出していこうと考えているのではないかと思われます。



つまり、両者ともに解決は小出しにスローに進めなくてはならないという動機を共有しているわけです。これに韓国の事情も重なります。韓国は、ベルリンの壁が崩れた際の西ドイツのように北朝鮮を即時、吸収合併する国力はありません。ですから統一には時間が必要です。

中国にしても、緩衝国家である北朝鮮がすぐに消滅されては困ります。ロシアも同様でしょう。北朝鮮は西側との経済交流が限られているからこそ、ロシアは安い労働力として北朝鮮の出稼ぎ労働力を使えているという面もあります。

とにかく、この時間という問題は大切です。即時ではなく、時間をかけて核放棄を行う、同じように時間をかけて政権崩壊を避けながら経済を拡大してゆく、そして要所要所で成果をアピールするという「スローなペース」ということ、そしてこのペースに関係するプレーヤー全員が了承して参加するということになった、今回の合意はそのように理解することができます。

日本の安倍政権のコミットメントですが、何よりも核放棄のコストを韓国とともに負担するというスキームが興味深いと思われます。ちなみに、このコスト負担ですが、トランプ側から強制されたものではなく、今回のシンガポール会談の前に、河野太郎外相から「IAEA(国際原子力機関)による査察費用を負担してもいい」というメッセージは発信されていたわけですから、日本としては自発的に提案しているアイディアと理解していいと思います。

どこが興味深いのかというと、例えば、同じコスト負担にしても戦後補償に見合うカネを渡すとなると、それと拉致被害者の調査・帰国がバーターになっているというのは、日本に取って受け入れが難しい話になります。犯罪行為の被害者を取り戻す話と、過去に関する補償とを一緒にすることになるからです。

一方で、仮に査察費用を負担するというのであれば、心理的にはるかに受け入れやすいし、日本の元外交官である天野之弥氏が率いるIAEAの応援にもなります。また、韓国が日本と同列で「一緒に同じ目的の費用を負担する」という位置付けになるのも、日韓関係から考えると良いアイディアであると思います。

しかしながら、このスキームにも大きな問題があります。拉致被害者を含む人道問題の救済というのは、一刻も早い解決が必要です。それが、政治的に設定された核放棄の「スローなペース」とシンクロするようでは困ります。ここは日本や韓国から見た場合、このスキームの難所ということになります。日韓がより協調しながら進めるだけでなく、必要があれば日朝直接交渉を行う必要もあるのは、そのためということになります。


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