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就任1年マクロンの成績表

ニューズウィーク日本版 / 2018年6月14日 16時30分

お世辞にも民主的なやり方とは言い難いが、マクロンはトップダウンの、フランス人の言う「垂直的」な統治を好む傾向がある。党員を思いどおりに操って、自分の業績をたたえさせているとの批判もある。



しかしマクロンは(サルコジやオランドと違って)私生活でも非の打ちどころがなく、大統領の職務も立派に果たしている。だから党から離反する者はいないし、党内に対立が生じる余地もほとんどない。

マクロンにとっての「協議」は、(労働法制改革案の発表前に労働組合と話したように)最初からやろうとしていたことを実行する前に、ひととおり他人の意見を聞いてみることだ。非民主的とまでは言えないとしても、高圧的な態度ではある。

マクロンは、最強の支配者という評判に喜んでいるようだが、最終的に有権者は論争に疲れて背を向けるかもしれない。よく言われることだが、フランス人は現状維持のために革命的な戦術を用いるのが好きだ。

運命は経済回復しだい

マクロンを、かつてのカリスマ的な大統領シャルル・ドゴールの再来と評する向きもある。しかしマクロンにとっては、いわゆる「富裕税」の大半を廃止する一方で年金生活者への課税を強化した「金持ち大統領」と見られることのほうが危険だ。

現実のマクロンは教育や障害者支援といった分野で社会保障の充実に努めている。選挙戦では「左でも右でもない」候補として新しい有権者層に訴え、若くて実務家的なエリート層の支持を獲得した。

しかし多くのフランス人は、伝統的な二元論に反発しつつもそれに愛着を抱いている。つまり、人を左か右のどちらかに区別したがる。だからマクロンは、左派の出身ではあるが、今は右派ということになる。

マクロンの選挙公約には、別の落とし穴が潜んでいる。フランスが中心となってヨーロッパの団結を強め、統合を進めると誓った点だ。

ヨーロッパの多くの有権者がEU(欧州連合)に反発している今の時代に、それは勇気ある公約だった。ドイツのメルケル政権が極右政党に脅かされ、イタリアに新たなポピュリスト政権が生まれた今、ヨーロッパ各国の首脳たちは当面、政権維持だけで手いっぱいだろう。

しかしマクロンは改革に突き進む。そしてフランス社会に苦い良薬を処方する。必要なことだが、それでも経済が回復しなければ、彼は連続3人目の1期限りの大統領になるだろう。

今の時代は、予想外の良い結果よりも想定外の悪い結果に賭けるほうが賢明だ。現にヒラリー・クリントンは米大統領選に敗れ、イギリスは国民投票でEU離脱を選択した。

それでもマクロンには、まだ「特別な人」の風格がある。そして「リベラル」という語を嫌うフランス人にリベラルな改革をもたらそうとしている。

この若くてハンサムで有能そうな指導者は、バラク・オバマ前米大統領のフランス版ともいえる。ただしそこには、オバマ同様、期待外れだった場合の過激な反動のリスクも含まれる。

パリにあるシンクタンク、モンテーニュ研究所のローラン・ビゴルニュ所長は言う。「ここ10年で初めて、フランスには国民が誇りに思える大統領がいる。彼は英語ができるし、スキャンダルもない。妻とも素敵な関係を続けている」

確かに。そういう点で今のアメリカ人が、自国の大統領を誇りに思えるかどうかは全く定かでないが。

From Foreign Policy Magazine

[2018.6.19号掲載]
ジェームズ・トラウブ(ジャーナリスト)


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