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中国が誇る伝統医学、その危険な落とし穴とは

ニューズウィーク日本版 / 2018年6月20日 16時15分

イギリスの医師アンドルー・ウェイクフィールドが98年にワクチンと自閉症の関係についてデータを捏造し、ワクチン批判を展開したことが大きな要因になり、先進諸国では予防接種を受ける人の割合が低下している。その結果、麻疹(はしか)など、予防接種で防げるはずの感染症が流行するようになった。ヨーロッパ大陸では17年、麻疹患者の数が前年の約4倍に増えた。



現代医学不信が悲劇をもたらす病気は、感染症だけではない。17年に米国立癌研究所ジャーナルに掲載された論文によれば、癌の最初の治療法として現代医学の標準的な治療法を拒み、代替医療を選んだ患者は5年後に死亡している確率が2.5倍に上るという。

つまり、現代医学に背を向けるのは賢明でない。中国が医学の分野で世界のリーダーになりたいなら、現代医学に対する不信感をあおるのではなく、それを積極的に受け入れるべきだ。

科学投資は増えているが

近年、中国の科学研究投資は大幅に増加している。17年前半に研究開発の専門誌R&Dマガジンが示した予測によると、同年の中国の研究開発投資は約4300億ドルに達する見通しだとのことだった。この金額はアメリカに次ぐ世界第2位で、世界全体の投資額の21%近くに相当する。問題は、この資金が適切に用いられているとは言い難いことだ。

10年にネイチャー誌が指摘したように、中国の科学系学術誌の多くは、「画期的とは言えない研究、誰も読まない論文や剽窃された論文で埋め尽くされている」。16年の研究によると、中国の研究者による鍼治療の臨床試験論文では、治療に効果が見られなかったという結果が報告されることは極めて少ない。

中国は、査読の不正による論文撤回の件数が世界で最も多い国だ。12~16年に全世界で撤回された論文の半分以上が中国の研究者によるものだった。中国の監督官庁が実施した調査によれば、臨床試験データの80%以上が捏造されているという。

中国は、世界の科学研究に大きな貢献ができるだけの人材と資金を持っている。しかし、中国の科学研究は質より量、エビデンスより伝統、独自性より同調を重んじる風潮に足を引っ張られているように見える。これでは研究の停滞が避けられない。

エビデンスに基づく医療を推進することは、中国の長期的な利益にも沿う。科学とテクノロジーへの不信感を強めている世界においては、一国の政府が科学的知識を重んじる姿勢を打ち出すことが重要だ。

習の力だけで中国の文化を変えられるわけではないが、中国の医学を進歩させるために習が振るえる影響力は大きい。

From Foreign Policy Magazine

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[2018.6.12号掲載]
アレックス・ベレゾウ(全米科学健康評議会上級研究員)


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