解放後も少年兵を苦しめ続ける心の傷と偏見
ニューズウィーク日本版 / 2018年6月25日 11時20分
武装解除プログラムは国連による平和構築の取り組みのカギだが、問題もある。交渉中に民兵組織の指揮官が国際NPOから支給品を奪い取ろうとしたり、戦闘員ではない子供や親戚を戦闘員と偽って見返りを得ようとするケースもあるという。
中央アフリカに詳しい米エール大学のルイーザ・ロンバード助教は、一部の武装解除プログラムを「腐敗の巣窟」と呼ぶ。担当者がカネでポストを売り、援助金が使途不明になっているのだ。ロンバードによれば、中央アフリカでは多くの人が「反乱はかつてないほど実を結んでいると考えている」。武装解除は民兵が「給与などさまざまな恩恵を受け取る最良の道」に思えるせいだ。
狩猟用の手製の銃を差し出し、洗練された武器は手元に残すケースもあるという。04~07年に行われた同国最大規模の取り組みでは戦闘員約7500人が動員解除されたが、引き渡された銃はわずか417丁。それすら保管できず、お粗末なデータベースでは適切な追跡もできなかった。武器の定義も曖昧で、担当者が銃の代わりに軍帽などを受け取った例もあった。
地域が元少年兵を拒絶
国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCA)のケネス・グラック事務次長は「過去に問題のある慣行が数多く存在した」ことを認め、過ちを繰り返さないと主張した。
少年兵の社会復帰も容易ではない。全員が心に傷を負い、再出発のチャンスに抵抗する子供も多い。薬物乱用は珍しくなく、問題を複雑にする。「武装組織の子供たちは会ったときにこちらを見たがらない」と、カガ・バンドロで子供たちの保護活動をする男性は言う。「彼らは林の中でさまざまな光景を目にし、残虐で攻撃的になる。それでも彼らと向き合えば、自分たちの身に起きたことは間違っていると理解する」
次のハードルは家に帰ることだ。地元の指導者や支援活動家は子供たちが地域に溶け込みやすいよう働き掛けや取り組みを行うが、元少年兵という烙印のせいでコミュニティーが受け入れを拒む可能性がある。
ハッサンの今後は分からない。昨年9月に解放された元少年兵74人のうち、ハッサンを含む数十人が5カ月後にカガ・バンドロ郊外に集まった。内戦で受けた心の傷にどう向き合うか、ユニセフの活動家と話し合うためだ。
子供たちは靴を脱いでマンゴーの木陰で毛布の上にあぐらをかいていた。ハッサンは黒のスポーツウエアを着て無表情で座っていた。所持金はなくユニセフからの配給で暮らし、難民キャンプなどで暮らす家族とは今も離れ離れだ。
それでも内戦を乗り越えるとハッサンは心に決めている。新しい技能を身に付け、仕立て屋か修理工になるのが夢だ。「新しい人生を始めるんだ」
[2018.6.26号掲載]
ジャック・ロシュ
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
イスラエル軍がヨルダン川西岸で最大規模の掃討作戦、武装勢力5人を殺害
読売新聞 / 2024年5月5日 19時31分
-
自家製爆弾vs竹やり。牧師が率いる「手作りの内戦」に同行した 国際社会の支援はゼロ。「打倒軍政」を支えるのは市民の熱意【ミャンマー報告】2回続きの(1)
47NEWS / 2024年4月28日 11時0分
-
殴打に電気ショック…水を求めると小便をかけられた イスラエル軍拷問の実態、ガザ市民が証言
47NEWS / 2024年4月21日 10時0分
-
スーダンでの戦闘激化から1年~重度の急性栄養不良に苦しむ子どもたち【プレスリリース】
PR TIMES / 2024年4月15日 17時45分
-
日本のNPOが主導し、紛争の終結へ一歩前進。ウガンダの元子ども兵社会復帰支援事業、12期生の訓練がスタート。
PR TIMES / 2024年4月10日 17時40分
ランキング
-
1ロシア、ウクライナのエネルギー施設に大規模攻撃 被害深刻
ロイター / 2024年5月8日 18時32分
-
2NATOの中国大使館爆撃から25年、習主席「悲劇を繰り返してはならない」
AFPBB News / 2024年5月8日 15時14分
-
3英、ロシア武官を国外退去へ スパイ行為理由に
共同通信 / 2024年5月8日 23時29分
-
4中国がカナダの選挙に執拗に介入、情報機関が警告
ロイター / 2024年5月8日 12時59分
-
5ラファ検問所閉鎖で飢餓が深刻化か、支援物資の供給滞る恐れ…戦闘休止の交渉を優位に運ぶ狙いか
読売新聞 / 2024年5月8日 23時3分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください