エジプトで自由を求め続ける86歳の女闘士
ニューズウィーク日本版 / 2018年7月4日 17時0分
サーダウィもエジプトの多くの左派同様、13年7月の軍によるモルシ政権打倒を歓迎し、クーデターという呼び方に反対している。「私はクーデターとは言わない。欧米はムスリム同胞団を排除したクーデターだと言うが、真実ではない。あれは民衆による革命だった」
だがアブデル・ファタハ・アル・シシ将軍が権力を掌握して4年たった今、エジプトでは大規模な人権弾圧が行われ、11年の革命に加わったリベラル派や作家、ムスリム同胞団メンバーなど大勢の活動家が獄中にある。今年3月の大統領選では有力な対立候補は出馬禁止になるか投獄され、シシが得票率97%で再選を果たした。
#MeTooは「今頃?」
それでもエジプト政府を支持するのか。「私はどんな政府も支持しない」と、サーダウィは言う。「本当に民衆のために働く政府なんてエジプトにもアメリカにも存在しない。私は個々の統治者を信じない。王も(マーガレット・)サッチャーもムバラクもシシもサダトも。民衆を1人の人間が統治するなんて無理。民衆による革命が必要」
エジプトでは女性器切除は違法だが、WHO(世界保健機関)によれば15~49歳の女性の87.2%が経験している。サーダウィは今も国内メディアでこの問題を論じることを禁じられているが、政府系のアハラーム紙にコラムを執筆している。「進歩はしている。サダトやムバラクの時代には検閲された」
エジプト以外でも明るい兆しが見えるという。その筆頭格が、17年10月のハリウッドでのセクハラ告発に端を発する「#MeToo(私も)」運動だ。「私の半分の年齢の女性たちが、私が40年前に気付いたことに気付いた。私は当時、父権制を階級や資本主義や宗教や人種差別と結び付けていた。#MeTooが起きて『今頃?』と言った」
長年「抑圧や差別に苦しんでいるのはアラブ社会やイスラム社会の女性だけで、アメリカやイギリスの女性は自由だと考えられていた。私は『いいえ、女性はみんな苦しんでいる』と言い続けた。50年代半ばにね。笑われた」。
話しながらサーダウィは紙切れに重要な単語を書き出して下線を引き、自分の主張を図にする。今後について尋ねると、彼女は紙切れを裏返して山あり谷ありの線を引く。歴史はそうやって浮き沈みしつつも常に前進しているのだという。
「今はここ」と、サーダウィは下降線の途中に印を付ける。「だからトランプやメイがいる。今は強烈な資本主義と強烈な宗教原理主義の組み合わせと人種差別の時代──パレスチナの人々があんなふうに殺されて。苦難の時代だけれど、いつか終わる。歴史とはそういうもの」
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[2018.7. 3号掲載]
オーランド・クロウクロフト
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