治安最悪のメキシコで「警護いらない」──メキシコ次期大統領
ニューズウィーク日本版 / 2018年7月5日 17時30分
<国民がもたないものは大統領ももたないという左派アピールは本物か>
メキシコの治安は最悪だ。今年の殺人件数が過去最悪を更新する勢い、というだけではない。7月1日には、大統領選挙と地方選挙、国会議員選挙など約3000の選挙が行われたが、その候補者48人を含む政治家145人が殺されたのだ。メキシコ史上最も血なまぐさい選挙戦だった。現職に取り入って甘い汁を吸っている麻薬組織が、脅威となる対抗馬を葬ったのだ。
そんななか、大統領選を大差で制したのは新興左派政党「国家再生運動」のアンドレスマヌエル・ロペスオブラドール元メキシコシティー市長(64)は、大統領に就任してもボディガードはつけないという。代わりにメキシコ国民に守ってもらう、とAP通信に語っている。
選挙後の7月3日の記者会見でも、「ボディガードはいらない。これからは国民が私の身の安全を確保してくれる」、とロペスオブラドールは語っている。
それは選挙前からの公約だった。ロペスオブラドールは、5月の選挙集会で支持者に言った。「ボディガードに囲まれて移動するなど御免だ」「正義のために戦う男に、恐れるものなど何もない」
政府幹部の減給分を民衆に?
ロペスオブラドールは、貧困層に手厚い社会保障などのポピュリズム(大衆迎合主義)政策と汚職撲滅を訴えて圧勝した。ボディガードをつけないという主張も、「国民と共にある大統領」というイメージ作りにひと役買った。
大統領公邸には住まないと言っているのも同じことだ。公邸は、国民のための芸術施設にするという。大統領専用機は売却し、政府関係者にもプライベートジェットやヘリコプターの使用を止めさせる。「政府が金持ちで国民が貧乏などというのは許されない」が持論だ。
大統領給与も前任者の半額に減らすという。政府高官の減給分を合わせ、浮いたお金は国民に支払う。「教師や看護師、医者、清掃員、警察、兵士、海兵隊員などの給与も上がるだろう」
ロペスオブラドールが治安の悪化や汚職、貧富の格差で不満を募らせていた国民の受け皿となり、2位以下を30%以上引き離して当選したのも、こうしたポピュリスト的なアピールのおかげだ。
どこまで本気かわからないが、とにかくボディガードをなくすのはやり過ぎだという批判もある。メキシコ経済教育研究所大学院大学 (CIDE)の政治アナリスト、ホセ・アントニオ・クレスポは「無責任な行為だ」とAP通信に語った。
「『自分はほかのみんなと一緒だ。なんの特権もない』と言うのは、デマゴーグ(扇動政治家)っぽいメッセージだ。彼は単なる一般人などではなく、国家元首になるのだから」と、クレスポは言う。「メキシコの安定と法の支配の実現は大部分、ロペスオブラドールの健康と身の安全にかかっている」
(翻訳:河原里香)
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デービッド・ブレナン
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