困っている難民や移民に手をさしのべるのは罪?──仏憲法評議会が判断

ニューズウィーク日本版 / 2018年7月9日 18時30分

<不法滞在であろうとなかろうと、人道的な見地から難民や移民に食事や寝る場所を提供する自由は保障される、という画期的な判断は、EU全体に影響を及ぼしそうだ>

南フランスの国境地帯では、昨年だけで2万9000人の不法難民移民が警察の手でイタリアに追い返されている。市民レベルでも、難民を支援する運動がある一方で、山地を抜けて密入国する難民をつかまえては追いかえす組織もある。極右政党国民戦線(現国民連合FN)や中道右派の共和党が陰で応援しているのだ。

サッカーのフランス代表がウルグアイに勝利してワールドカップ(W杯)準決勝進出を決めた7月6日、「難民と移民の権利の尊重と、とくに彼らを助ける人にとって非常にポジティブな一歩」と、人権団体アムネスティ・インターナショナル・フランスが呼ぶニュースがあった。

「博愛の原則」が「連帯の罪」に勝ったというのだ。

「連帯の罪」とは、密入国してくる移民たちを車で運んだり、宿や食事を提供して支援したりすることに最高5年の懲役または3万ユーロの罰金を科す外国人入国滞在法典第622-1条の俗称である。本来はブローカー対策なのだが、人道的な活動に対しても適用されることがある。そのとき、こう呼ばれる。

憲法評議会(憲法院とも訳される)が、これを現行憲法の「博愛の原則」に違反していると判断したのだ。

憲法評議会は、ドイツの連邦憲法裁判所と同じように法律などの違憲性を判断する機関で、違憲判断がでた条文は無効になる。フランスの法律を見るとよく「憲法評議会の決定により削除」と書いてある。

不法移民を宿泊させたら有罪?

昨年2月、イタリアとフランスの国境に近い谷間でオリーブ農家をしているセドリック・エルーさんと仲間のピエール=アラン・マノニさんは、ニース裁判所で、3000ユーロの罰金刑をうけた。エルーさんはすでに何度か逮捕され、そのつど釈放されていたが、2016年10月に、空き家になっていた国鉄の保養所を占拠してエリトリア人とスーダン人など50人(一説には200人)を宿泊させたところ、共和党の地元議員から批判を受け、警察に踏み込まれ、起訴、有罪判決を受けた。

8月に開かれた控訴審では、エックス・アン・プロヴァンス控訴院は、エルーさんに執行猶予付4カ月、マノニさんに執行猶予付2カ月の禁固と第1審よりも重い刑を宣告した。

外国人入国滞在法典第622-1条には2012年から例外がつくられ、難民移民の家族が支援する場合や、人道的活動として対価なしに「人としての尊厳と適切な生活条件を保つための法的な助言や食事、宿泊施設や医療およびその他のあらゆる人としての威厳や肉体的十全性を保つための援助」を行うことは免除されている。ところが控訴審は、エローさんは確かにブローカーのように金銭的な対価は受けていないものの、当局が実施する検査から外国人を逃れさせる運動の活動家であり、法律の規定への抗議行動の一部でもあるので、「活動家としての対価」を得ていると評価した。



このとき、エルーさんは裁判所の前に集まった支持者を前に、「国がうまく機能しない時に活動するのが市民の役割だ。検察官に、国境を越えようとして死んだ15人の家族の話を聞いてほしい。 私は戦い続ける。私を直接刑務所に入れるならいれるがいい」と叫び、破棄院(最高裁判所)に上告した。

その裁判の中で、エルーさんとマノニさんは、破棄院が憲法評議会に「合憲性の優先質問」をする手続きを求めた。

憲法評議会は、憲法の前文および第2条(「共和国のモットーは自由、平等、博愛である」)と72-3条にある「自由、平等、博愛の理念」という表現を根拠として、憲法には「博愛の原則」があるとした。そして「立法者は公共の秩序を守ることと博愛の原則の両立を図らなければならない」として、密入国そのものの支援への罰則自体は合憲としつつも、「人道的な目的から我が国の領土に滞在する合法性を考慮することなしに他人を助ける自由がある」と、不法移民を車に乗せたり、宿や食事を提供したりすることを罰するのは違憲だとしたのである。

ハンガリーを牽制できるか

このエピソードは、あらためて民主主義の法治国家とは一体どういうものなのかを教えてくれた。エローさんらの質問は、法文が曖昧すぎるため明確にして欲しい、というものだった。法律に曖昧な表現が満ちているのに、違憲かどうか争うことすらできない日本とは大違いだ。しかも、質問がだされてからわずか2カ月で結論が出され、7か月後には条文は失効するのである。

この憲法判断によって「活動家としての対価」などという奇妙な理由はなくなる。さらに、憲法は権力者を拘束するものであるから、不法滞在かどうかということよりも博愛の原則の方が重いというこの決定は、フランス政府がこの問題についてこの方向で明確な姿勢をとる以外にないことを意味する。ドイツで難民への風あたりが強まったり、ハンガリーで難民を支援する人を罰する法律が成立したりするなか、EUでの議論にも影響を与えることは間違いない。


[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。

広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

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