地下鉄サリンから23年、オウム事件と日本社会の変化
ニューズウィーク日本版 / 2018年7月12日 17時15分
さらに重要なのは、宗教的カルトと政治的カルトの違いは人為的な分類にすぎず、後者は神を信じない欧米の知識人を魅了してきたという事実だ。スターリン時代のソ連に祖国を売ったイギリスのスパイ「ケンブリッジ・ファイブ」は、庶民ではなく名門大学卒のエリートだった。
高学歴の人間は目の前の現実を無視する傾向があり、カルト的な知識体系や集団に心を奪われる――日本に限らず、あらゆる国で見受けられる現象だ。
第3に、オウム事件は日本の歴史的瞬間――バブル時代の熱狂が去り、はるかに困難な時代が始まろうとしていた時期に起きた。これは日本特有の現象に思えたが、08年の世界金融危機後には先進国全体が同じような自信の喪失に直面した。
既にテロ、銃乱射、陰謀論、民族対立、政治的分断が深刻な問題として浮上している。ヨーロッパでは無数の若者がテロ組織ISIS(自称イスラム国)の戦闘員に志願した。大半は社会の「負け組」だが、中には医師や一流大学の学生もいる。
オウムに限らず、政治的・宗教的カルトは「真理」を売りものにする。混迷と動乱の時代には、この商品の需要は大きい。次に登場するオウム的組織は、麻原には想像し難い方法で破壊を世界中に広める能力を持っているかもしれない。
<本誌2018年7月17日号【最新号】掲載>
ピーター・タスカ(経済評論家)
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