アメリカは欧州を「タダ乗り」させるためにNATOを作ったのに
ニューズウィーク日本版 / 2018年7月12日 19時26分
それらのコストを数値化するのは難しいが、その方が実態に近づく。
さらに、もしNATOの費用負担の不公平をめぐる論争が会計上の争いに矮小化されてしまえば、それこそ現状維持派の思う壺だろう。
そもそもアメリカの外交政策の目的は、他国の防衛支出を抑制させることだ。アメリカが描く大戦略において、他国による「タダ乗り」は制度上の欠陥などではなく、むしろ特色と言える。米シンクタンク、マンハッタン研究所のクレア・バーリンスキは、次のように言い切った。「なぜ私たちは突如、アメリカがヨーロッパに『食い物にされている』という怒りに捕らわれてしまったのか。まさにそれが制度の狙いなのに、なぜ忘れてしまったのか。そう仕組んだのはアメリカなのに」
国家主義的再軍備を食い止めた
バーリンスキは正しい。冷戦後のアメリカの大戦略をリードした論客として知られるハル・ブランズは、著書『American Grand Strategy in the Age of Trump』(トランプ時代のアメリカ国家戦略)の中で、アメリカは「他国がアメリカの保護の下で小さめの軍隊を持つことを可能にした」、と述べた。米政治学者クリストファー・レインも著書『幻想の平和』の中で、アメリカは「NATOを作ることで、西ヨーロッパ諸国がまた(域内の安全保障ではなく)国家主義的な目的で再軍備を始めるのを食い止めた」と書いた。
もし今後アメリカがNATOの集団安全保障の意義について議論をするつもりなら、中身のある議論でなければならない。それらの政策実現に伴う実際のコストを軽視してはいけないし、タダ乗りが誤りであるかのようなフリをしてもいけない。NATOのそもそもの狙いを否定するような議論は大戦略に背くものだ。
(翻訳:河原里香)
This article is originally published on Cato Institute site.
John Glaser is director of foreign policy studies at the Cato Institute.
ジョン・グレイザー
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