市街地が戦場になる......中東で進む「スターリングラード」化
ニューズウィーク日本版 / 2018年7月18日 17時40分
首都バグダッドのスラム街であるサドルシティーは、シーア派民兵組織マハディ軍の拠点となり、その活動を支えた。08年に米軍を中心とする大掛かりな掃討作戦が実施されるまでの約5年間、ここは米軍も足を踏み入れられない地区だった。
街を巻き込み政府に対抗
市街戦の長期化は、最近の中東の戦争に一貫して共通する特徴だ。シリア第2の都市アレッポは、反政府勢力と政府軍の4年にわたる激戦の舞台となり、一部地域は完全に破壊された。
イラク第2の都市モスルでは16~17年、ISISが街の複雑な構造を利用して、米軍が後押しする掃討作戦に対抗した。簡易爆弾やバリケード、ドローン(無人機)を使って街全体を戦場に変えるその戦術は、約10万5000人の敵に対抗する唯一有効な方法だった。
反政府勢力にとって、市街地は金づるになるという側面もある。ISISはモスルやラッカを制圧すると、すぐに行政機構の改革に着手し、住民から税金を徴収し始めた。
国や自治体の管理が及ばない場所は、密輸組織にとっても都合がいい。だからラッカを「首都」に定めたISISは、外国から武器や燃料、医療品の供給を受けることができた。戦場からは離れるが、パキスタンの港町カラチは、アフガニスタン反政府勢力の資金源であるヘロイン貿易の一大拠点だった。
イエメンのホデイダには、市街戦が長期化する要素がそろっている。サウジアラビア連合軍は、中心部での戦闘を最小限に抑える意図を明確にしてきたが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、街の主要インフラや幹線道路が破壊され、人口過密地区で戦闘が起きると予想している。
それによってダメージを被るのは、ホデイダだけではないだろう。ホデイダは貧困国イエメンの農工業の中心であり、経済発展の頼みの綱だ。
新しい日常 空爆で破壊されたホデイダ港(5月27日) Abduljabbar Zeyad-REUTERS
紛争再燃のリスクも上昇
昨年11月に国際戦略研究所(IISS)と赤十字国際委員会(ICRC)がジュネーブで会議を開催。拠出国や人道機関、安全保障の専門家が、市街戦は人道危機を引き起こすだけでなく、経済発展を脅かすと警鐘を鳴らした。そして戦争が重要インフラや工業生産、雇用、保健システム、エネルギー供給に与える間接的な影響は、爆撃や銃撃による短期的な破壊と同じくらい市民生活に大きなダメージを与える可能性があると結論を下した。
政府および政府軍は、紛争と反乱活動の都市化という近年の流れを踏まえて、破壊された行政サービスを迅速に復旧する(できれば戦闘を遠ざける)必要性を認識するべきだ。実際、ICRCは戦闘当事者らに対し、人口密度の高いエリアと市民生活にとって最重要インフラの近くでは、爆弾の使用を避けることを呼び掛けてきた。
その背景には人道的な理由だけでなく、戦略的な理由もある。都市インフラが破壊されれば、武力紛争後も不安定で未開発の状態が長く続き、地域の緊張が高まって、紛争が再燃するリスクが高まるからだ。
市街戦の長期化を防ぐこと、あるいは縮小することは、現代の紛争で最も重要な戦略的・人道的課題の1つと言える。
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[2018.7.17号掲載]
アントニオ・サンパイオ(国際戦略研究所研究員)
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