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シンガポール米朝首脳会談の夢から覚めて

ニューズウィーク日本版 / 2018年7月20日 17時40分

米朝首脳会談から3週間を経ても北朝鮮は2つの約束を実行に移しておらず、ポンペオが今回の訪問で成し得たのは「手順」に関する実務レベルでの話し合いのみ。これらの事実は、平壌がいまだ合意すらしていない、核物質の放棄や核製造施設の解体などの真に重要な問題については迅速な進展など望めそうにないことを示唆している。

ポンペオにとって最大の問題は、対北制裁の圧力が弱まっていることだ。トランプ政権は北朝鮮に対する厳しい制裁を維持するとしているが、ポンペオ自身、中国が対北制裁を緩和していることを認めている。北朝鮮を交渉のテーブルに着かせた「最大限の圧力」は今や、中国の協力がなくなったことで「最小限の圧力」と化している。

置き去りにされる日本

理論上は今も対北制裁が維持されているが、制裁は中国の積極的な協力があって初めて効力を発揮するもの。今やそれがなくなり、6月には中国国際航空が平壌行きの便の再開を発表し、北朝鮮を訪れる中国人観光客が増えている。北朝鮮から中国に入る出稼ぎ労働者も再び増加し、中朝国境の不動産価格が上昇。北朝鮮は中国への石炭輸出を再開、中国は海上で船から船へ積み荷を移す「瀬取り」で石油を輸出している。さらに中国政府は制裁解除を提案している。

最も重要なのは、3カ月という短期間に3回訪中した金を、習近平(シー・チンピン)国家主席が大々的に温かく歓迎したことで、中国の実業家や闇商人たちに明白な「ゴーサイン」を出したことだ。これで、取引を行う上でのポンペオの交渉力は損なわれた。



最初は戦争に、その後は唐突に北との対話へとジグザグに歩を進めて同盟諸国の不意を突くことで、トランプはアメリカへの信頼を揺るがし、ルールのない自由参加の競争を開始した。

金はこの状況を利用して韓国、中国、ロシア政府と個別に取引を行っており、これらの国々がアメリカに対し要求の軟化とさらなる譲歩を強く求めている。

外交プロセスで置き去りにされ、トランプの在韓米軍撤退発言に衝撃を受けた日本は、アメリカの核の傘なしにどうやって北朝鮮の核搭載ミサイルから身を守るかを考え始めている。マティスとポンペオは、最近の日韓との会談をはじめ、同盟諸国を安心させようと苦心しているが、トランプの行動に照らすとどれもむなしく聞こえる。

北朝鮮がポンペオを「ギャングのような発想の要求」をしていると批判したことを受けて韓国大統領の報道官が述べたように、千里の道も一歩から始まるのは確かだ。だが北朝鮮の核の脅威は地雷原であり、トランプ政権がさらなる「踏み間違い」を回避することができなければ、その旅が成功することはないだろう。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年7月24日号掲載>

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ダニエル・ラッセル(オバマ政権時代の元米国務次官補)


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