1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

ロシアの年金制度改革がプーチン人気を潰す

ニューズウィーク日本版 / 2018年9月8日 14時40分

それが本当なら、姑息なやり方は裏目に出た。改革案にはすぐさま抗議の声が上がり、わずか2週間でプーチンの支持率は77%から63%に低下した。欧米の指導者に比べればまだ高い水準にあるとはいえ、国営メディアを完全に支配している指導者にしては危機的な数字だ。



受給年齢の引き上げが猛反発を食らうのは、ロシア人の平均寿命が短いからでもある。改善傾向にあるとはいえ、男性の平均寿命は66歳。10人に1人は65歳以前に亡くなる。

女性の平均寿命は77歳だが、年齢差別のために、多くの女性は中高年になると働きたくても雇ってもらえない。年金の受給年齢が引き上げられたら、「飢え死にするしかないかも」と、モスクワ在住の40歳のシングルマザーは言う。

政府は年金改革がプーチンの公約に反することは認めながらも、人口構成の変化で改革に踏み切らざるを得ないと主張している。ロシアでは高齢化が急速に進み、政府の推計によれば、44年には高齢者の数が労働人口に追い付いて国家予算を多大に圧迫する恐れがある。6月、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「どの国の政府も自由気ままに動けるわけではない」と発言。ドミトリー・メドベージェフ首相も改革は「不可避かつ長年の懸案」だと主張した。

プーチンは改革案発表から1カ月余り過ぎた7月20日、ようやく口を開いた。改革案は気に入らないとしつつ、廃案をちらつかせることはなかった。「国民の大部分にとってデリケートな問題なのは確かだが、情に基づいて決定すべきではない」

国民は納得していない。モスクワの独立系調査機関レバダセンターが7月に発表した世論調査によれば、有権者の約90%が年金改革に反対、改革撤回を求める抗議デモも辞さないという人は40%近くに達した。「社会の激しい怒りを示すものだ」と同センターのレフ・グドコフ所長は言う。

庶民の怒りは一触即発の状態だ。8月3日、ロシア西部カルガの年金基金事務所前で爆弾が爆発、ビル入り口の一部が破壊された。爆発について国営メディアは報道せず、地元テレビ局のウェブサイトからは破壊されたドアの映像が削除された。

絶対的指導者に致命傷が

ロシア各地で共産党支持者や労働組合員や民主化活動家ら大勢の人々が年金改革に抗議する集会を開いている。人々が休暇から戻る秋には規模が拡大する可能性が高い。反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイは「支給開始年齢引き上げは純然たる犯罪。必要な改革を装った強盗にすぎない」として、統一地方選のある9月9日に全国規模の年金改革反対デモを実施するよう呼び掛けた。そのナワリヌイが8月25日、治安当局に拘束されたことも火に油を注ぎかねない。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください